更新日 2010.12.20

連結納税制度への対応のポイント

第4回 連結納税制度の開始・加入での資産の時価評価

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税理士・公認会計士 中野伸也 TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
税理士・公認会計士 中野伸也
連結納税制度適用の有利・不利判定や、連結納税の承認の申請書の書き方から、連結納税制度適用後の組織再編、子法人のフォローアップ、また、電子申告の実践、タックスプランニングの実行にいたるまで、連結納税制度への対応ポイントを解説します。

連結納税開始直前の最終事業年度、または新規加入する直前の事業年度での申告で最大の問題は、資産の時価評価です。今回は、資産の時価評価について説明します。

1.時価評価をしなければならない法人

法人税法の規定は、原則として全ての子法人は連結納税制度開始または加入に伴い、資産を時価評価しなければならないが、一定の子法人については時価評価の対象外とするというものです。時価評価の対象外となる法人は次の通りです。

  1. 株式移転完全子法人(実質親法人)
  2. 5年超保有子法人
  3. 100%グループ法人により設立された100%子法人
  4. 連結納税開始前5年以内の適格株式交換による株式交換完全子法人
  5. 連結納税開始前5年以内に法令の規定による単元未満株式等の買取により、100%子法人となった子法人
  6. 連結納税開始前5年以内の適格合併等による被合併法人等の長期保有子法人等
  7. 完全支配関係を有してから2ヶ月以内にその完全支配関係を有しなくなる法人(平成22年度改正により新設)

つまり、時価評価の対象外となるのは、実質親法人(1)と実質5年超100%保有子法人(2)~(6)及び実質連結納税グループ非加入法人(7)です。しかし、実務では、実質5年超100%保有子法人に該当するか否かの判断が難しい場合(特に(4)(6))が度々あります。そのような場合は、グループ加入前からの合併等の経緯を十分に吟味しなければなりません。

また、この実質5年超100%子法人は、その保有する繰越欠損金を特定連結欠損金として、連結納税計算の中に持ち込める法人((1)を除く)です。そのため、ここで判断を誤ると以降の連結納税額の計算に大きな影響があります。

なおご存じとは思いますが、実質親法人(1)は親法人として繰越欠損金をそのまま持ち込めます。

2.時価評価対象資産

時価評価の対象となる資産及びその評価区分単位は、次のとおりですが、その評価区分単位ごとの評価差額がその法人の資本金等の額の2分の1相当額、または1千万円のいずれか少ない額に満たないものについては、時価評価の対象になりません。そのため、実際に時価評価しなければならない資産はそう多くはありません。

  1. 固定資産
    建物については1棟ごと、機械装置は一の生産設備又は1台ごと、通常の取引単位があるものはその取引単位ごと。その他の固定資産についても機械装置と同じ。
  2. 土地等(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く)
    一筆ごとに区分し、一体として事業の用に供されている一団の土地等についてはその一団ごと
  3. 金銭債権
    債務者ごと
  4. 有価証券
    銘柄の異なるごと
  5. 繰延資産
    通常の取引の単位ごと

なお、次の資産は政令により時価評価資産から除かれています。

  1. 連結納税加入前5年以内の圧縮額の損金算入等の適用を受けた減価償却資産
  2. 売買目的有価証券
  3. 償還有価証券

土地は評価単位をどのようにみるかによって、評価額が変わってくる場合があります。一筆ごとに評価すべきなのか、それとも一体として事業の用に供されていると見て一団の土地として評価すべきなのか。土地の使用状況については充分な注意が必要です。

3.資産の時価

各資産の時価は、第三者との通常の取引価額として合理的な金額であることが原則です。しかし、課税上弊害がない場合に認められる方法として、連結納税基本通達に時価評価対象資産の時価算定方法についての記載があります。これは、課税上弊害がない場合に認められる方法ですから、実態と大きくかけ離れた評価額になる場合は適用できませんので注意してください。概要は次のとおりです。

  1. 減価償却資産
    有形減価償却資産は再取得原価を基に、その取得の時から連結納税加入直前事業年度終了時点(評価時点)まで旧定率法(または定率法)により償却を行った場合の未償却残高相当額。無形減価償却資産及び生物は、その取得価額を基に取得時点から評価時点までに旧定額法で償却を行った場合の未償却残高相当額。
  2. 土地
    近傍類地の売買実例を基礎として合理的に算定した価額又は近傍類地の公示価額等から合理的に算定した価額。
  3. 有価証券
    上場有価証券は市場価額又は直前1ヶ月間の市場価額の平均。上場有価証券以外の有価証券は、6ヶ月以内の適正な売買実例価額、なければ1株あたり純資産額等を斟酌して通常取引されると認められる額、あるいは財産評価通達の例によって算定した額。
  4. 金銭債権
    個別評価金銭債権は、債権額から個別貸倒引当金繰入限度額を控除した金額。その他の債権は金銭債権の帳簿価額。
  5. 繰延資産
    創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債等発行費は帳簿価額。その他の繰延資産は、その支出の時点から評価時点まで償却限度額いっぱいに償却した未償却残高相当額。

以上のように、土地と有価証券以外は、取得価額(または再取得価額)を基として通常の償却等をした後の金額なので、大きな評価損益が計上されることは極めて少ないと思われます。例外的に大きな評価益が計上される可能性のある償却資産としては、5年を超える以前に国庫補助金等により取得し、圧縮記帳している生産設備などです。この場合は、圧縮記帳前の再取得価額を基に償却をした残額=時価なので、結果として、圧縮記帳対応分が評価益として計上されてしまいます。

土地について適切な近傍類地の公示価額がない場合は、相続税の評価通達を参考にした評価額を基とする評価も許される場合があると考えます。

4.自己創設営業権

時価評価対象資産に自己創設営業権をあげる論も見受けられますが、私は自己創設営業権を評価計上する必要はないと考えています。また私の知る範囲内ですが、自己創設営業権を評価計上した例はありません。

組織再編税制が整備され、従来は「営業権」と捉えられてきたもののほとんどが「資産調整勘定」となり、税務上「営業権は独立した資産として取引される慣習のあるもの」(法人税法施行令第123条の10第3項)に限定されているので、時価評価すべき営業権はタクシー業のナンバー権など極めて特殊なものだけに限られます。

また営業権は無形固定資産なので、通達では取得価額を基礎とした未償却残高を時価評価額とすることになります。その取得価額は0ですから未償却残高も0で、当然に評価額も0になります。

5.資産の時価評価と会計

連結納税開始直前期の時価評価は税法の規定によるものです。単体法人としての会計は、このような時価評価を受け入れて、帳簿価額を付替えるということはありません。そのためこの評価差額は、会計上は簿外となり、別表4で加減算され、別表5で繰越されることになります。減価償却資産等の税務上の帳簿価額は評価替え後の金額となり、償却費の限度計算の中で調整がなされることになります。

したがって、資産の時価評価によって大きな一時差異が生じる場合があります。逆に、減損処理していた不動産について時価評価を行うことによって、一時差異がなくなるという場合もあり得ます。これらの一時差異について繰延税金資産・負債を認識するかどうかは、会計的に重要な問題です。この点については前回でも言及していますが、個々の資産についてこの一時差異の解消可能性(償却、譲渡等)を検討する必要があります。

筆者紹介(中野伸也)

税理士・公認会計士 中野伸也(なかの しんや)

TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
TKC連結納税システム推進プロジェクト会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員長

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中野会計事務所

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