更新日 2011.01.17

連結納税制度への対応のポイント

第5回 連結納税制度に加入・離脱する法人の税務申告の注意点

  • twitter
  • Facebook

税理士・公認会計士 中野伸也 TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
税理士・公認会計士 中野伸也
連結納税制度適用の有利・不利判定や、連結納税の承認の申請書の書き方から、連結納税制度適用後の組織再編、子法人のフォローアップ、また、電子申告の実践、タックスプランニングの実行にいたるまで、連結納税制度への対応ポイントを解説します。

連結納税を採用している法人グループが、新たに他の会社の持ち分を100%所有することとなった場合、その他の会社は当然に連結納税グループに加入することになります。この中には、連結法人が合併会社となって他の法人と合併したことにより、その被合併法人の100%子法人の持ち分を有することになる場合などもあります。

逆に連結納税グループ内のある子会社の株式の一部(又は全部)をグループ外の法人などに売却した場合は、その子会社は連結納税から離脱します。こうして離脱した子会社が同じ連結納税グループに再加入するのは5年間禁止されています。

このほか、子法人の連結納税からの離脱事由としては次のものがあります。

  1. 国税庁長官の職権によって連結納税の承認が取消される場合
    単体申告であれば、仮装隠蔽等により青色申告が取消される場合に該当します。この場合、取消日以前に発生したその子法人の連結欠損金個別帰属額は切捨てられ、連結納税の再開始・再加入は5年間制限されます。また、青色申告取消ですから単体申告になっても1年間は青色申告の承認申請を提出できません。
  2. 合併または破産開始決定による解散
  3. 残余財産の確定

以下、当コラムでは、連結納税加入直前事業年度の単体申告や、離脱時の申告で注意すべき点について説明します。

1.連結納税加入する子法人の税務申告のポイント

連結納税に新規に加入することになると、加入時点までの単体申告を行い、その後に連結納税グループとしての計算になります。

(1) みなし事業年度(加入前単体申告の期限)

単体申告の対象となる期間(みなし事業年度)は、事業年度開始の日から連結加入日の前日までの期間です。申告期限は、その2ヶ月後(申告期限延長をしていれば3ヶ月後)です。

しかしながら、平成22年度税制改正により、このみなし事業年度を「加入日の前日の属する月次決算期間の末日までの期間」とする特例ができました。この特例を受けるためには、この連結子法人となる会社が本来のみなし事業年度に係る確定申告書の提出期限までに、この特例の適用を受ける旨を記載した「完全支配関係を有することとなった旨等を記載した書類」を連結親会社、加入子会社のそれぞれの所轄税務署長に提出する必要があります。

例えば、3月決算法人で、6月16日に100%子会社となったとすると、4月1日から6月15日(連結加入日の前日)までが原則のみなし事業年度となります。この場合、その申告期限である8月15日(申告期限の延長をしていれば9月15日)までに届出をすれば、みなし事業年度の特例を受けられるので、4月1日から6月30日までがみなし事業年度となります。その申告期限は8月31日(又は9月30日)になります。

(2) 加入直前事業年度の所得計算等の注意点
  1. 資産の時価評価損益の計上
    連結納税グループに新規加入した法人(前回のコラムで時価評価対象外法人とした、1.(3)~(6)の法人を除く)は、資産の時価評価をします。資産の時価評価をした場合は、その評価損益を税務調整として所得に加減算しなければなりません。
  2. その他
    上記以外は通常の単体申告計算です。連結納税特有の計算規定は適用されません。しかしながら、完全支配関係を有することとなった日から特例を受けたみなし事業年度末までは、グループ法人税制の規制の中に入ります。資産譲渡や寄付金について注意してください。

2.連結納税から離脱する法人の税務申告のポイント

(1) みなし事業年度

連結納税から離脱する事由が生じた日に承認が取消されるため、その前日までのみなし事業年度を設け、連結法人として単体申告をします。さらに、連結親法人と事業年度が一致しない法人は離脱事由が生じた日から連結事業年度終了の日までをみなし事業年度として通常の単体申告をします。その後、その法人の本来の決算日による通常の単体申告となります。

なお平成22年度の税制改正で、子会社の解散は連結納税からの離脱事由ではなくなりました。離脱は残余財産が確定した時です。このため解散した連結子法人の税務上の事業年度は連結事業年度のままですが、清算事務年度は会社法の規定により、解散した日から1年ごととなります。

(2) 「連結法人としての単体申告」

連結事業年度開始の日から離脱の日の前日までの申告は、「連結法人としての単体申告」です。単体申告ですが、連結法人としての取扱いのうち一部が適用されます。以下、その際の注意点等を列挙します。

  1. 欠損金
    帳簿の不備等により国税庁長官の職権で連結納税の承認を取消された場合を除き、連結欠損金個別帰属額は、離脱法人の繰越欠損金として引き継がれます。離脱直前の単体申告でも離脱後の単体申告でも、繰越欠損金としては同じ取扱いになります。
  2. 譲渡損益調整資産
    完全支配関係を有しないこととなった場合において譲渡損益調整資産の繰延損益は、原則として、その有しないこととなった日の前日の属する譲渡法人の事業年度の所得の金額の計算上、益金の額または損金の額に算入します。よって、離脱法人が調整資産を譲渡した側で調整額を有している場合は、離脱直前の「連結法人としての単体申告」で、その調整額の残額を益金または損金の額に算入します。
    グループ内での組織再編による離脱の場合は、調整額は合併法人等へ引き継がれます。
  3. 受取配当金等の益金不算入
    連結納税離脱直前の「連結法人としての単体申告」では、完全支配関係がある状態なので、連結会社からの配当金や、関係法人株式からの配当であるかの判断は、連結納税グループ全体での判断と同じ扱いになります。負債利子控除の計算では、単体での総資産按分法以外は連結納税と同じ計算をします。つまり、完全支配関係のある法人に支払うものは負債利子から除き、その元本も総資産按分法計算での分母から除きます。
  4. 寄附金
    連結法人からの受入寄附金は全額益金不算入、支払寄附金は全額損金不算入というグループ法人税制の適用を受けます。
  5. 貸倒引当金
    連結法人に対する債権は貸倒引当金の設定対象から除きます。貸倒実績率の計算でも連結グループ内の法人の実績は含めません。
  6. 所得税額控除
    個別法の計算で、配当計算期間中に他の連結法人から元本の譲渡を受けた場合、所有期間を通算します。銘柄別簡便法の場合、連結法人の所有元本数を合算することは実態として不可能なので、単体で計算適用することとなっています。
  7. 帳簿価額修正
    連結子法人の立場での申告ですので、投資簿価修正の修正未済額を明らかにするための別表5の2(1)付表2を作成しなければなりません。
  8. 地方税の申告
    連結納税制度の下での申告なので、控除対象個別帰属税額等がある場合は連結納税特有の別表を記載しなければなりません。
(3) 離脱手続きと離脱後の単体申告

国税庁長官の職権によって連結納税の承認が取消された場合は、その取消処分の日に離脱したことになります。この場合は国税庁長官名で通知を受けるので、法人側からの手続きは不要です。

上記以外の場合は、「連結完全支配関係を有しなくなった旨を記載した書類」を遅滞なく、連結親法人、連結子法人はそれぞれの所轄税務署長に提出しなければなりません。また、離脱した法人が連結納税開始後に設立された100%子法人であった場合は、青色申告の届出書を提出していないので、原則として通常の単体申告となる事業年度開始の日から2か月以内に青色申告の承認の申請書を所轄税務署長に提出します。提出し忘れるとその事業年度(最初の単体申告)から白色申告になってしまいます。離脱後の最初の単体申告は、単体申告そのものですので特別の計算や別表はありません。

なお、子法人が連結納税グループから離脱するときには、連結法人税個別帰属額の清算をしておく必要があります。

筆者紹介(中野伸也)

税理士・公認会計士 中野伸也(なかの しんや)

TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
TKC連結納税システム推進プロジェクト会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員長

ホームページURL
中野会計事務所

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。