更新日 2011.01.31

連結納税制度への対応のポイント

第6回 組織再編と連結納税制度(1/2)

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税理士・公認会計士 中野伸也 TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
税理士・公認会計士 中野伸也
連結納税制度適用の有利・不利判定や、連結納税の承認の申請書の書き方から、連結納税制度適用後の組織再編、子法人のフォローアップ、また、電子申告の実践、タックスプランニングの実行にいたるまで、連結納税制度への対応ポイントを解説します。

組織再編と連結納税としての問題は、大きく2つに分けられます。第一は組織再編に伴う連結納税への加入・離脱の問題です。第二は、それに伴う課税所得計算の問題です。

連結納税を採用している法人が合併、会社分割等の組織再編を行った場合でも、連結納税特有の組織再編規定があるわけではなく、基本的に単体納税と同じ規定が適用されます。しかしながら、組織再編に伴う加入、離脱が発生すると、加入前の時価評価、繰越欠損金の引き継ぎ・切捨て、投資簿価修正、譲渡損益調整資産の繰延べ譲渡損益の戻入れなどの、連結納税制度、グループ法人税制特有の問題もそれに伴い発生しますので、単体納税に比べて税務上の取扱いが複雑になります。

以上の問題は、当WEBコラム第4回と第5回でも触れたところですので、第6回では、(1)組織再編と連結納税開始・加入(グループ外法人を連結納税グループ内に取込む場合)、(2)連結納税グループ内だけでの組織再編、(3)組織再編により連結納税グループ内の事業がグループ外に出ていく場合に分けて考えてみます。

1.組織再編税制の基本的思考の変更(平成22年度税制改正)

本論に入る前に、平成22年度税制改正により組織再編税制の基本的な考え方が変わっていますので、まずその確認をしておきたいと思います。

従来の組織再編税制の基本的な考え方は、適格再編では課税済みの利益積立金をそのまま引き継ぐということ(旧法令8①五カッコ書きイ、ロ及び9①二)でした。したがって、適格合併を行った場合は、引継純資産額-利益積立金=増減資本金等の額になっていました。新法令ではこの規定が変更され、引継純資産額-資本金等の額=増減利益積立金となっています。

また旧法人税法第62条の2第2項において、被合併法人は、合併法人の株式等を合併法人に引き継ぐ簿価純資産相当額で取得し、これを直ちに被合併法人の株主等に交付したものとして構成されていました。平成22年改正で上記の法人税法第62条の2は、適格再編では資産負債の簿価がそのまま引き継がれる旨が規定されているだけです。

そのため、被合併法人の株主に直接合併法人の株式を交付することになり、被合併法人の税務処理としても直接に資産、負債、資本金等の額を消滅させることになります。

さらに、グループ法人内の組織再編については、非適格再編であっても大きな固定資産(譲渡損益調整資産)については簿価で引き継ぐこと(法法61の13⑦)とされています。

このようにみてくると、税務の考え方が「共通支配下の取引により企業集団内を移転する資産及び負債は、原則として、移転直前に付されていた適正な帳簿価額により計上する」(『企業結合に関する会計基準』§41)というような会計基準に合わせることを優先しているのかと思われます。

2.組織再編と連結納税開始・加入

ここでの主要な問題は、繰越欠損金を引継げるか、資産の時価評価をしなければならないのかどうかです。平成22年度改正により、繰越欠損金の引継ぎ可能=時価評価不要となったので整理が簡単になりました。原則として、適格合併等によりグループ内に加入した法人については、5年超継続保有という要件をクリアすれば、繰越欠損金の引継ぎ可能=時価評価不要となります。

(1) 連結納税開始前の組織再編

連結納税開始前の組織再編で税務上考慮すべき点は、事業上の必要性を前提とはしますが、繰越欠損金を最大限繰越可能とする、不必要な時価評価を行わないようにすることです。このために親会社等を合併法人とする適格合併などを考えます。

  1. 連結開始前の適格株式移転により、親会社を新設する場合(図1)
    これにより、完全子法人A,Bは欠損金を非特定連結欠損金として持ち込むことができ、Aの子法人Cは設立以来の100%子会社なので時価評価が不要ですし、繰越欠損金があれば特定連結欠損金として持ち込み可能です。子会社Dは、4年前に取得されたので時価評価が必要です。図1
  2. 子会社を吸収合併する適格合併(図2)
    適格合併により、合併法人は被合併法人の繰越欠損金(合併前5年以内に支配関係を有した場合の、支配関係を有した日前に生じた欠損金を除く)を引継ぐことができます。これは同時に時価評価すべき法人についての対策でもあります。連結納税開始に伴う資産の時価評価が不要な法人(=繰越欠損金持込み可能な法人)は、親法人と親法人が連結納税開始5年超前から実質的に保有している100%子会社です。この中には、親法人と適格合併した被合併法人が5年超所有していた子会社も含まれます。
    時価評価が必要となる資産を有する子法人(B社)が、親会社と適格合併すれば、その資産は当然ですが、時価評価の対象外となりますし、欠損金があれば親会社の欠損金として連結納税に持ち込むことができます(図2)。また、親会社が5年超保有している子会社(A社)とB社が適格合併すれば、B社の資産は時価評価不要となりますし、欠損金は特定連結欠損金として連結納税に持ち込むことができます。図2
  3. 子法人の解散による現物分配と繰越欠損金の引継ぎ
    平成22年度改正により100%子法人が解散し、残余財産が確定した場合の税務上の取扱いは、適格吸収合併と同じ効果を持ちます。
(2) 連結納税開始後の組織再編(合併)による加入

ここでは次回のコラムで扱う、連結納税開始後のグループ組織再編の内容以外の、連結納税開始後に加入となる場合の組織再編について説明します。

  1. 連結親法人が適格合併を行った場合
    連結納税開始後に連結親法人が適格合併を行った場合、基本的には上記の(1)②と同じです。ただ繰越欠損金については平成22年改正でこれを特定連結欠損金(法法81の9③)としていますので、連結納税開始前の合併と連結納税開始後の合併では取扱いが異なることになります。また、被合併会社が有していた100%子会社は当然に連結納税グループに加入することになります。この場合に各子会社において繰越欠損金を特定連結欠損金として持ち込めるかどうか、資産の時価評価が必要かどうかも上記と同じです。
  2. 連結親法人が非適格合併を行った場合
    連結親法人が非適格合併を行った場合は、被合併会社の繰越欠損金は切りてられ、同時に連結納税グループに加入することになる全子会社の繰越欠損金も切捨てられます。各子会社の資産の時価評価も必要です。
  3. 連結子法人が連結納税グループ外法人を吸収合併する場合(三角合併)(図3)
    連結子法人が連結納税外グループ法人を吸収合併する場合、合併対価として親法人株式を交付する合併(いわゆる三角合併)以外では、通常、被合併法人の株主に当該子法人の株式を交付することになるので連結納税グループから離脱することになります。 しかしながら三角合併で税制適格要件を満たしている場合は、合併会社(B社)は被合併会社(C社)の繰越欠損金を特定連結欠損金として引き継ぎます。この被合併法人の100%子会社も連結納税に加入することになります。この子会社の欠損金、資産の時価評価の扱いも上記と同じです。図3
  • 上記の①③によりグループ外の法人を被合併法人とする適格合併が、連結事業年度開始から6か月以内になされた場合は、前期の実績額を基礎とする連結法人税中間納付額は、その計算基礎に被合併法人の確定法人税額を加算します。
  • 税制適格合併要件:適格合併は、合併に伴って合併法人の株式等又は合併法人と完全支配関係にあり合併後もその関係が継続することが見込まれている合併親法人等株式のみが交付され、かつ次のいずれかに該当するものを言います。
    1. 合併法人と被合併法人が完全支配関係にあり、かつ、合併後もその関係が継続することが見込まれている場合。
    2. 合併法人と被合併法人が50%超100%未満の持ち分関係にある場合は、従業者引継要件(被合併法人の従業者の概ね80%を引き続き雇用すると見込まれること)と事業継続要件(被合併法人の主要な事業が合併法人において引き続き営まれること)が加わる。
    3. 合併当事者間の持ち分関係が50%以下の場合は、従業者引継要件、事業継続要件のほか、事業関連性要件、事業規模又は特定役員引継要件と株式の継続保有要件が加わる。

完全支配関係にある中での組織再編は、(1)にあるように資金の授受がない限り原則として適格再編となります。

筆者紹介(中野伸也)

税理士・公認会計士 中野伸也(なかの しんや)

TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
TKC連結納税システム推進プロジェクト会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員長

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中野会計事務所

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