更新日 2011.03.14

連結納税制度への対応のポイント

第9回 税務戦略-タックス・コンプライアンスとタックス・マネジメント

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税理士・公認会計士 中野伸也 TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
税理士・公認会計士 中野伸也
連結納税制度適用の有利・不利判定や、連結納税の承認の申請書の書き方から、連結納税制度適用後の組織再編、子法人のフォローアップ、また、電子申告の実践、タックスプランニングの実行にいたるまで、連結納税制度への対応ポイントを解説します。

1.税務戦略-税務部門の役割

税効果会計と組織再編税制の導入。租税特別措置法での損金算入特例の多くが縮減されたことによる、税額控除特例の相対的な重要性の増加。これらは、税務部門の役割を大きく変え、事後的な申告業務だけを行っている税務部門は、いまや、過去のものとなりつつあります。

組織再編は、その最終効果が同じでも、法的形態により、税負担が大きく異なる可能性があります。また、黒字法人と赤字法人の損益通算により、グループとしての税負担を軽減する連結納税や、各種の税額控除は、企業が自らこれを選択し適用しなければ、適用されないものです。さらに、これらの税務処理の違いは税効果会計における繰延税金資産の回収可能性の判断に影響します。

大きな企業グループであれば、これらの税務判断によりキャッシュアウトする税負担が億円単位で異なり、税効果会計の影響によっては十億円単位で会計上の税金費用が異なることもあるでしょう。とすれば、適切な税務選択がなされなかったことについて、株主代表訴訟が提起されることも将来ないとは言えません。

このような税務部門の戦略目標は、タックス・コンプライアンスを前提としたグループ全体での実効税率の低減を図ること(タックス・マネジメント)です。

そのため税務部門は、事業を展開している各地域の税法を正しく幅広く理解したうえで、グループ全体の研究開発活動や投資計画、そして組織再編等の企業戦略を把握している必要があります。これらの企業行動に伴う税務上のメリット・デメリットやリスクを正しく分析し、経営トップ層が適切な意思決定を行うための情報を提供しなければなりません。このような税務部門の役割の変化については、畑中税理士のTKCWEBコラム「グループ法人税制と連結納税制度の比較検討のポイント」にも書かれていますので参照してください。

連結経営の強化に向けた体制が重要

2.税務のリスク管理(タックスコンプライアインス)とタックス・マネジメント

大きな企業グループであっても単体申告の場合、税務申告そのものについては子会社に任せっぱなしで、親会社は子会社の申告書を紙ベースで収集し内容のチェックまではしない、せいぜい連結会計での税金費用の算出のために別表4,5と繰越欠損金の一部だけのデータを連結会計のシステムで収集してチェックする、という程度の管理が多いように見受けられます。これでは、税務申告にどれほどのリスクが隠れているか全く把握できません。現に我々が連結納税システムの導入コンサルの過程で、子会社の申告書をチェックすると概ね2割弱程度の子会社に何らかの誤りが見受けられます。中には、明らかに納税額が過大になっているような誤りもあります。これは申告書だけでの誤りですから、その裏にどれだけの税務判断の誤りがあるかわかりません。また、多くの企業では税務調査での安全第一的な税務対応となっていて、本来取ることのできる税務メリットを享受していないリスクが潜在している可能性があります。

会計がグループ全体を問題にしているときに、当期純利益に直接重要な影響を与える税務について、充分なリスク管理がなされていない状況です。さらに、申告内容が否認されたり租税回避行為に認定されたりした場合、想定外の税務費用が発生したり、報道により会社イメージが傷つけられる可能性もあります。こうした税務のリスクを考えると、事前にいかにシミュレーションしておくか、いかにミスが起こらない体制を作っておくかということ(税務コンプライアンス体制の構築)が、税務部門の重要な仕事になります。

グループ全体の実効税率を低減させる方法としては、次の3点が直接的です。

  1. 事業展開を実効税率の低い地域で行う
  2. 連結納税の採用によりグループ内での損益通算を行う
  3. 試験研究費の税額控除、外国税額控除等の税額控除を受ける

タックス・マネジメントは、これらを軸に組織再編税制や税効果会計への影響額などを総合的に勘案しながら、グループ全体で実効税率の引き下げを図ろうとするものです。グループ全体の税務リスクを親会社が管理していなければ、これは有効に実行できません。

税務リスクをグループ親会社で集中して管理するためには、そのためのシステムが必要です。このようなシステムは連結納税制度を採用することにより必然的に用意せざるを得なくなりますし、用意することができます。連結納税制度を採用することで直接の費用増加を少しでも上回る節税のメリットがあるのなら、ためらうことなく連結納税を採って税務リスクの管理体制を構築する方向を選ぶべきです。また、グループ内に単体申告会社がある場合は、共通した申告システムを採用することにより税務リスクの集中管理へと進むことができます。TKC連結納税システム(eConsoliTax)は、ミスを低減し税務リスクの集中管理を可能とするツールであることを構想して開発しています。

筆者紹介(中野伸也)

税理士・公認会計士 中野伸也(なかの しんや)

TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
TKC連結納税システム推進プロジェクト会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員長

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中野会計事務所

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