更新日 2011.04.11

災害時の開示

第13回 協会会長通牒にある『阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について』

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公認会計士 中田 清穂TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

災害による決算発表や報告書の期限延長に関する解説や、決算短信や有価証券報告書での記載事例を解説します。

 2011年3月30日、日本公認会計士協会から会長通牒平成23年第1号「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」が公表されました。

 今回は、この会長通牒を解説します。

1.平成7年3月27日に日本公認会計士協会から公表された協会通牒「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」の内容を一部修正している項目

 以下の表は、会長通牒に記載されている「災害の範囲」、その「会計処理」及び「科目表示」をまとめたものです。
 基本的に、協会通牒「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」とほぼ同じ内容です。協会通牒「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」を確認されたい方は、このコラムの末尾にあるファイルを参照してください。

 以上が、協会通牒「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」を踏襲した部分になります。
 今回の会長通牒では、上記に加えて、以下の項目を追加して説明しています。

2.災害時における決算・開示実務上の留意事項

  1. 繰延税金資産の回収可能性の判断(監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」)
    1. 今回の災害が企業の将来収益力にどのような影響を及ぼすか(一時的か長期的かなどを含む。)
    2. 災害発生による主要な計画要因の将来変化の可能性に留意し、翌期以降の事業計画又は利益計画の見直しが必要かどうか。
    3. 明らかに合理性を欠く業績予測であると認められる場合には、適宜その修正を行った上で課税所得を見積もる必要があることに留意する。
    4. 災害損失による多額の税務上の繰越欠損金等の発生等による、繰延税金資産に係る会社区分の見直しが必要かどうか
    5. 例示区分「4」のただし書き(非経常的な特別の原因により発生)に分類することが適切かどうか。
  2. 取引先の財政状態の悪化等

     取引先の財政状態が悪化し、売掛金等の営業債権(敷金や差入保証金を含む。)の貸倒れ等のリスクが高まる場合もあるため、債権の評価(担保権の評価を含む。)に関しては、留意する必要がある。

    【データ収集や会計上の見積りが困難なケース】
    合理的な損失等の見積りを財務諸表に適切に反映した上で、データ収集や会計上の見積りの制約に関する重要な事項を注記において適切に開示する。

     
  3. 保有有価証券の時価の下落

     時価を把握することが極めて困難と認められる株式(非上場株式)については、可能な限り災害発生の影響を反映させた実質価額を把握し、減損の要否について検討する。

    【データ収集や会計上の見積りが困難なケース】
    合理的な損失等の見積りを財務諸表に適切に反映した上で、データ収集や会計上の見積りの制約に関する重要な事項を注記において適切に開示する。

     

  4. 固定資産の減損判定
    1. 災害により物理的な損害を受けたもの:
       上記1①で説明した会計処理
    2. それ以外の固定資産:
       将来キャッシュ・フローに災害の影響が生じる場合には、従来の減損判定を見直す必要性の有無について適切に検討する。
       この場合、経済的残存使用年数への影響も考慮する必要がある。
  5. 継続企業の前提
     継続企業の前提に係る疑義が発生した場合、当該注記を付すかどうかの判断をする。

3.平成23年3月11日(災害発生時)より前に決算日を迎えた企業

 今回の災害に係る影響は開示後発事象として取り扱う。
 債権、棚卸資産、固定資産及び繰延税金資産などの評価に当たって

  1. 決算日時点の状況を基礎として見積もり、
  2. 災害に係る影響が重要な場合に、開示後発事象として注記する。
    【災害に係る影響の例】
      ・ 災害に起因する信用リスクの増大
      ・ 将来キャッシュ・フローの悪化
      ・ 将来の課税所得の見積りの下振れリスクなど

4.内部統制監査

  1. 災害が発生したことにより経営者の評価手続が実施できない場合の取扱い
    「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」において、やむを得ない事情による評価範囲の制約に該当する。
    1. 経営者:
      当該事実の及ぼす影響を把握した上で、当該範囲を除外して、財務報告に係る内部統制の評価結果を表明することができる。
    2. 監査人:
      当該内部統制報告書の記載内容及びやむを得ない事情により内部統制の評価ができなかった範囲の影響を判断し、内部統制報告書に対して内部統制監査意見を表明することになる(無限定適正意見を表明)。
  2. 無限定適正意見の前提条件
    1. 経営者による評価が、やむを得ない事情を除き、全体として適切に実施されていることかつ、
    2. やむを得ない事情により、十分な評価手続を実施できなったことが財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼすまでには至っていないこと
      (当該事業拠点が滅失してしまった場合は、期末日現在評価対象が存在しないため、評価対象外になる)

5.中間財務諸表及び四半期財務諸表関係

 四半期報告書における取扱いも、上記内容に準じて対応する必要がある。

6.決算スケジュールの延長

 今回の災害を受け、平成23年3月13日に東北地方太平洋沖地震を特定非常災害に指定する政令が公布・施行されたことにより、

  1. 本来の提出期限までに金融商品取引法に係る諸提出書類の提出がなかった場合であっても、本年6月末までに提出すればよいこととされた。
  2. 会社法については、法務省が定時株主総会の開催時期についての説明資料を公表している。具体的対応については、各企業の法律専門家も交え検討する必要があると考えられる。

 (1)については、第2回「特定非常災害特別措置」を参照ください。
 (2)については、第10回「法務省「定時株主総会の開催の延期」についてを参照ください。

7.本コラムで対象にした、日本公認会計士協会から公表された2つの通牒の全文は以下です。

  1. 【協会通牒(1995/3/28):阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について】

    ※上記の協会通牒は、有限会社ナレッジネットワーク社ホームページの「カレントトピックス(災害時の開示)」PART8:協会会長通牒にある『阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について』の下部に、PDFファイル【協会通牒(1995/3/28):阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について】へのリンクがございます。そちらからご確認ください。
  2. 【会長通牒(2011/3/30):東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について】

本文は有限会社ナレッジネットワーク社ホームページの『カレントトピックス(災害時の開示)』に掲載された記事の転載となります。

筆者紹介

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
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