更新日 2014.07.14

ベンチャー投資に関連してIPOのポイントを再整理

第1回 IPOをとりまく動向について

  • twitter
  • Facebook
公認会計士 大山陽希

公認会計士 大山 陽希
大手監査法人勤務

最近の市況を反映して、大企業でもベンチャー投資が活発化し、大企業とベンチャー企業の業務提携も増加しています。
このコラムでは、そういったIPOを取り巻く最新の動向をふまえ、改めてIPOのメリットやデメリット、またスケジュールについて解説いたします。

ベンチャー投資とIPO

 昨今、ベンチャー企業の資金調達のニュースを目にしない日はないくらい、ベンチャー企業への投資が活発になってきています。
 平成26年5月28日に発表された「一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC) VECベンチャーニュース- 直近四半期動向(平成26年第2号)-」によると、2013年度のベンチャー投資金額は、1,695億円に達し、2012年度(投資金額1,017億円)と比較しますと、66.7%の大幅な増加となったとされています。
 国内向けベンチャー投資について、2012年度上半期の244億円以降、同下半期268億円、2013年度上半期297億円、同下半期321億円と増加しており、2012年度下半期以降の、株式市場の活性化、金融の異次元緩和、ベンチャー振興諸施策の実施などが、この背景とされています。

ベンチャー投資額

 また、総務省発行の「情報通信白書平成25年版」によると、近年、大企業がいわゆる「一社単独主義」を転換し、ベンチャー企業のM&A、提携を通じてノウハウを短期間で取得し、製品・サービスの高付加価値化を図る動きが顕在化するなかで、自らベンチャーキャピタルを設立・運営する「コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)」が活発化しており、とりわけモバイル産業に関連する分野で顕著になっているとされています。米国では以前よりCVCが浸透しておりますが、国内では2011年頃からネット企業や通信事業者、放送事業者などで設立されていると記載されています。
 このようにベンチャー投資が活況を呈する中、ベンチャー企業又はベンチャー企業に対する投資家は、どのようなEXITの選択肢を考えているのでしょうか。一つは、M&A、もう一つはIPO(新規株式上場)であると考えられます。本連載は、IPOに関して、その環境とともに、基礎的な知識やポイントを整理することとします。第1回目は最近のIPOの動向についてです。

最近のIPOの動向

 IPOの市場は2008年のリーマンショック以降、史上最低水準で推移していました。翌2009年を底に、その後は回復基調にあります。市場活性化のために証券取引所は上場審査の制度を改正し、よりIPOが増加するような対応をしてきました。それに連動するように証券会社や監査法人もIPOを志向する企業に対するサポートを充実させてきています。2013年のIPO社数は58社まで増加し、毎年のようにIPO企業数が増加するような状況にあります。リーマンショック前の2008年のIPO数が49社ですから、すでにその頃の水準を完全に回復していると言えます。本年2014年においても上半期を過ぎた執筆日現在で上場承認が降りている企業が30社という状況です。通年(暦年)では70社前後のIPOが見込まれており、やはりIPO企業は増加する傾向に変わりありません。

年別IPO件数

 IPOを達成した企業の内訳を見てみると、サービス業・情報通信業・小売業が多いのが特徴です。これらの三業種でIPO企業の約半数を占めています。また上場後の初値に注目すると、情報通信業とりわけネット系・スマホゲーム(アプリ)・SNSというような流行のキーワードに関係する事業を展開しているIPO企業の初値が高くなる傾向があります。また、そのような企業は創業後比較的短期間でIPOを達成しているケースが多いのも特徴です。
 今後、更にIPOを活性化させるような制度の改正も始まっています。2014年5月には「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成26年法律第44号)が成立し、IPO後の3年間は内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)に関する監査の適用を選択できることとなりました(施行日は公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定めることとされています)。また、2014年6月には「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(案)」が公表され、IPO時に必要となる有価証券届出書に記載する財務諸表の年数を従来の5年分から2年分に短縮するよう改正することが予定されています(2014年8月下旬に施行予定)。
 このように、IPOを取り巻く環境は追い風が吹いている状況であり、これに伴ってIPOを志向する企業の数も非常に多くなっていると感じられる状況にあります。

プロフィール

公認会計士 大山 陽希(おおやま はるき)
大手監査法人勤務

著書等
  • これですべてがわかるIPOの実務(共著・中央経済社)
  • 株式公開ハンドブック(共著・中央経済社)
  • 新規上場実務ガイド(共著・中央経済社)
  • 会社を成長させる5つのアクション-経営管理体制の整備とIPO-(共著・中央経済社)

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。