更新日 2020.02.17

連結納税制度の見直し

第2回 連結納税制度とグループ通算制度の比較

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士・公認会計士 足立好幸

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 足立 好幸

令和2年度税制改正大綱では、連結納税制度の見直しと新たな制度(グループ通算制度)の創設が明記されました。当コラムでは、連結納税制度の見直しと新しいグループ通算制度について、大綱と執筆時点で公表された法案をもとに解説します。

1.現行制度と新制度の比較

 『グループ通算制度』の基本的な仕組みについて、『連結納税制度』と比較すると以下のようにまとめられる。

連結納税制度
(現行制度)
グループ通算制度
(新制度)
納税主体と申告方法
  • 一体申告方式
  • 親法人が申告を行う(連帯納付責任あり)。
  • 個別申告方式
  • 親法人及び各子法人が申告を行う(連帯納付責任あり)。
税務上の事業年度 親法人の事業年度に合わせる。
  • 親法人の事業年度に合わせる。
  • 開始、加入、離脱のみなし事業年度について、一部見直しを行うほか、連結納税制度と同様とする。
損益通算及び欠損金の通算 可能 可能
開始・加入時の時価評価と繰越欠損金の切り捨て
  • 親法人では時価評価は行われず、開始前の繰越欠損金は切り捨てられない。
  • 子法人は特定連結子法人に該当する場合を除いて、時価評価が必要となり、開始・加入前の繰越欠損金が切り捨てられる。
  • 開始・加入時の時価評価と繰越欠損金の取扱いについて、組織再編税制と同様の要件と利用制限を課す取扱いとする(時価評価・繰越欠損金の切り捨ての対象は縮小する)。
  • 親法人も制限対象とする(但し、限定的)
SRLYルール 子法人の開始・加入前の繰越欠損金(特定連結欠損金)にはSRLYルールが適用されるが、親法人の開始前の繰越欠損金(非特定連結欠損金)は、SRLYルールが適用されない。 親法人及び子法人の開始・加入前の繰越欠損金(特定欠損金)にSRLYルールを適用する。
※SRLYルールとは、制度に持ち込んだ開始・加入前の繰越欠損金を自己の所得を限度にしか使用させない措置をいう。
投資簿価修正 適用。 適用。
但し、離脱法人の株式の離脱直前の帳簿価額を離脱法人の簿価純資産価額にするなど、制度全般を改組する。
離脱
  • 5年間再加入を認めない。
  • 離脱法人はその資産を帳簿価額のまま持ち出すことができる。
  • 5年間再加入を認めない。
  • 通算グループから離脱した法人が主要な事業を継続することが見込まれていない場合等には、その有する資産については、直前の事業年度において、時価評価により評価損益の計上を行う。
個別制度 受取配当金の益金不算入、寄附金の損金不算入、研究開発税制及び外国税額控除、所得税額控除、留保金課税等はグループ調整計算を行う。
  • 研究開発税制及び外国税額控除については、グループ全体で税額控除額を計算する(グループ調整計算を存続する)。
  • 受取配当金の益金不算入は、グループ調整計算とする。
  • 所得税額控除、寄附金の損金不算入、留保金課税など他の個別制度については、個別計算を原則とする。
中小法人の判定 親法人の資本金の額により連結グループ内の全ての法人の判定を行う。 通算グループ内のいずれかの法人が中小法人に該当しない場合、通算グループ内の全ての法人が中小法人に該当しないこととする。
税率 親法人の適用税率による。中小法人の軽減税率の適用対象は連結所得金額のうち年 800万円までとする。 通算グループ内の各法人の適用税率による。なお、中小法人の軽減税率の適用対象所得金額は、年 800 万円を所得法人の所得の金額の比で配分した金額とする。
電子申告
  • 親法人が資本金1億円超の場合、連結グループを一体として法人税の電子申告義務を課す。
  • 電子申告の場合、親法人が個別帰属額届出書を一括提出することができる。
  • グループ通算制度の適用法人には法人税の電子申告義務を課す。
  • 親法人の電子署名により子法人の申告及び申請、 届出等を行うことができることとするほか、ダイレクト納付についても所要の措置を講ずる。
包括的租税回避防止規定 包括的な租税回避防止規定(法法132の3)がある。 包括的な租税回避防止規定を設ける。
修正・更正の取扱い
(税務調査)
グループ内の1法人で修正・更正が生じた場合、グループ内の他の法人の所得金額及び法人税額の計算に反映させる仕組み。 グループ内の1法人で修正・更正が生じた場合でも、原則として、損益通算できる損失等の額を当初申告額に固定することにより、グループ内の他の法人の所得金額及び法人税額の計算に反映させない(遮断する)仕組みとする。

2.適用関係と経過措置

 グループ通算制度は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用される。
 また、連結納税制度からの移行に伴う経過措置は次のとおりとなる。

  • ①連結納税制度の承認は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度においては、グループ通算制度の承認とみなす。
  • ②連結法人は、連結親法人が令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日までに税務署長に届出書を提出することにより、グループ通算制度を適用しない単体納税法人となることができる。
  • ③連結納税制度における特定連結欠損金個別帰属額を、グループ通算制度における特定欠損金額(その法人の所得の金額を限度として控除ができる欠損金)とみなす。

 上記①については、連結納税制度を採用している企業は、グループ通算制度に自動的に移行すること意味しており、上記②については、グループ通算制度に移行するか、単体納税制度に戻るか、を検討する必要があることを意味している。
 また、上記③については、グループ通算制度では、親法人の開始前の繰越欠損金にSRLYルールが適用されるが、グループ通算制度の移行前に連結納税制度を採用した場合、親法人の開始前の繰越欠損金(連結納税制度の非特定連結欠損金個別帰属額)はグループ通算制度では非特定欠損金(SRLYルールが適用されない欠損金)として持ち込めることを意味している。そのため、連結納税制度の駆け込み採用が増える可能性がある。

 次回以降において、グループ通算制度における個別の取扱いについて、連結納税制度と比較しながら解説していきたいと思う。

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