更新日 2025.06.02
TKC税務研究所 特別研究員
鈴木 久志
事業所税は、都市環境の整備および改善に関する事業に要する費用を充てることを目的とした税金です。このコラムでは、事業所税の歴史、課税団体、課税標準額、納税義務者、非課税規定、税率、免税点、申告・納付方法などについて、事業所税の基礎知識を解説していきます。
当コラムのポイント
- 事業所税の基本的な仕組み
- 課税団体と納税義務者
- 非課税規定
- 税率と免税点
- 申告・納付方法
- 目次
-
2.事業所税の概要
(1) 事業所税の課税団体・納税義務者・課税標準
- ④ 非課税
-
次のような法人(人的非課税)や一定の施設に係る事業所等において行われる事業(用途非課税)については、事業所税が非課税とされています。
- イ 国及び公共法人(地法701の34①)
⇒ 事業所税が非課税 - ロ 公益法人等又は人格のない社団等(地法701の34②)
⇒ 事業所等において行う事業のうち収益事業以外の事業について非課税 - ハ 非課税施設(地法701の34③)
博物館法第2条第1項に規定する博物館その他政令で定める教育文化施設などの特定の施設に係る事業所等で行う事業
⇒ 事業所税が非課税 - ニ 資産割が非課税とされる事業所床面積(地法701の34④)
百貨店、旅館などの消防法に規定する防火対象物で多数の者が出入りするものに設置される防火設備等で一定のものなどに係る事業所床面積 - ホ 従業者割が非課税とされる従業者給与総額(地法701の34⑤)
港湾運送事業法に規定する港湾運送事業者が本来の事業の用に供する施設で一定のものに係る従業者給与総額
- イ 国及び公共法人(地法701の34①)
(2) 税率・免税点
- ① 税率
-
事業所税の税率は、一定税率(地方団体が課税する場合にこれ以外の税率によることができないものとして法定されている税率をいいます。)とされており、それぞれ次のとおりとなっています(地法701の42)。
- 資産割
- ⇒ 事業所床面積1平方メートルにつき600円
- 従業者割
- ⇒ 従業者給与総額の100分の0.25
- ② 免税点
-
事業所税では、資産割及び従業者割のそれぞれについて免税点制度が設けられており、それぞれ次の免税点以下の場合には、資産割又は従業者割が免税とされます(地法701の43①)
- 資産割
- ⇒ 指定都市等の区域内(東京都の特別区の場合は特別区の区域内)の各事業所等に係る事業所床面積の合計面積(非課税部分を除きます。)が1,000平方メートル
- 従業者割
- ⇒ 指定都市等の区域内(東京都の特別区の場合は特別区の区域内)の各事業所等の従業者の数(非課税部分を除きます。)が100人
(3) 課税標準の算定における特例
協同組合等がその本来の事業の用に供する施設や学校教育法に規定する専修学校又は各種学校において直接教育の用に供する施設など一定の施設に係る事業所等において行われる事業に対して課される資産割又は従業者割の課税標準となるべき事業所床面積又は従業者給与総額の算定については、一定の割合を控除するなどの特例措置が設けられています(地法701の41①②)。
この特例措置は、課税標準を減ずるものであるため、免税点の判定については、ここで控除される部分を含んだ数値で判定することになります。
(4) 申告・納付について
事業所税の徴収は、申告納付の方法によらなければならないとされています(地法701の45)。
申告・納付については、法人の場合は、各事業年度終了の日から2月以内に、その事業年度に係る事業所税の課税標準額及び税額その他必要な事項を記載した申告書を事業所等所在の指定都市等の長に提出し、その申告した税額を当該指定都市等に納付しなければならないとされています(地法701の46)。
また、個人の場合は、その年の翌年3月15日までに、個人の課税期間に係る事業所税の課税標準額及び税額その他必要な事項を記載した申告書を事業所等所在の指定都市等の長に提出し、その申告した税額を当該指定都市等に納付しなければならないとされています(地法701の47)。
なお、事業所税の申告は、法人税のように確定した決算に基づき申告するという規定にはなっていませんので、法人税において確定申告書の提出期限の延長の特例(法法75の2)を受けている法人であっても、事業所税には、そのような特例規定はなく、上記の申告期限までに申告し、納税する必要があります。
また、申告の内容に不備があった場合には、不申告加算税、過少申告加算金、重加算金などの各種加算金や延滞金が課されることになりますので、ご注意ください(地法701の60、701の61、701の62)。
法人の各事業年度又は個人に係る課税期間において、納付すべき事業所税がない者であっても、指定都市等の長は、その納付すべき事業所税額がない法人又は個人に対して、当該指定都市等の条例によって、申告書の提出をさせることができることとされています(地法701の46③、701の47③)。
納付すべき事業所税がない者に対して申告書を提出させる旨の条例を定めているものとしては、例えば、東京都では、東京都都税条例第188条の17第4項に「納付すべき事業所税額のないもののうち規則で定めるもの」は、一定の事項を記載した申告書を知事に提出しなければならない旨を規定しており、東京都都税条例施行規則第17条の4において「前事業年度又は前年の個人に係る課税期間において事業所税の納税義務を有する者」(第1号)、「事業所床面積の合計面積が八百平方メートルを超え、又は従業者の数の合計数が八十人を超える当該事業所において事業を行う者」(第2号)を定め、申告書の提出を義務付けています。
東京都以外の指定都市等でも、条例において、基準は異なるものの、同様の規定が置かれている場合が多いと思われるところ、指定都市等は、納付すべき事業所税がない場合であっても、正当な事由がなくその申告をしなかった者に対して、当該指定都市等の条例で10万円以下の過料を課する旨の規定を設けることができることとされています(地法701の49の2)ので、納税義務がない場合においても、申告が必要となる場合があるという点については、注意が必要となります。
(5) その他
事業所税は、「申告納税方式による租税」となっていますので、法人税における損金算入の時期は、納税申告書が提出された日の属する事業年度とされており、更正又は決定に係る税額については、その更正又は決定があった日の属する事業年度とすることが原則ということになります(法基通9-5-1⑴)。ただし、製造原価や工事原価などの原価のうちに申告期限未到来の納付すべき事業所税に相当する金額が含まれている場合において、法人がその金額を損金経理により未払金に計上したときのその金額については、合理的な収益・費用の対応計算を認めることとし、その損金経理をした事業年度の損金算入が認められています(法基通9-5-1⑴イ)。
3.おわりに
事業所税には、多くの非課税規定や課税標準の特例などが設けられており、また、免税点の判定や特殊関係者がある場合における共同事業の判定などいろいろと複雑なところもありますが、本稿では、細かな点を省き、事業所税の基礎的なお話をさせていただきました。
概要として、事業所税がどのようなものであるのかといった全体像をイメージしていただければ幸いです。
了
この連載の記事
テーマ
プロフィール
鈴木 久志(すずき ひさし)
TKC税務研究所 特別研究員
免責事項
- 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
- 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
- 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。