収益認識に関する会計基準ポイント解説

第1回 収益認識に関する会計基準の概要

更新日 2018.09.18

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会副代表幹事 公認会計士・税理士 岸田泰治

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
公認会計士・税理士 岸田 泰治

2018年3月30日に「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)、「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)が公表されました。当コラムでは、今回公表された収益認識基準等の内容についてポイント解説します。

1.はじめに

 わが国では、これまで収益認識に関する包括的な会計基準は存在しておらず、昭和24年に制定された企業会計原則の「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」(企業会計原則 第二 損益計算書原則)旨の規定に基づいて、売上計上の処理を行ってきました。
 実現主義は、「財貨の移転又は役務の完了」とそれに対する「対価受領の約束の成立」の両者を満たした時点で売上計上を行う基準です。商品販売であれば、検収時点となります。その意味では、出荷基準は実現主義の要件を満たさないことになりますが、弊害がないものとして実務慣行で認められてきました。

 一方、国際会計基準審議会(IASB)は、米国財務会計基準審議会(FASB)と共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、2014年に「顧客との契約から生じる収益」(国際財務報告基準(IFRS)第15号、Topic606)を公表しました。IFRS第15号とTopic606は、2018年1月1日開始事業年度より適用が開始されていますが、ほぼ同じ内容となっています。

 このような国際的な影響を受けて、わが国の企業会計基準委員会(ASBJ)では、会計基準を高品質で国際的に整合性あるものにするという観点から、IFRS第15号を踏まえた収益認識基準の開発を進めました。ASBJは、2016年2月に「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」を公表し、2017年7月の「収益認識に関する会計基準(案)」等へのコメントに対する検討を経て、2018年3月に、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)および「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)を公表しました(以下、併せて収益会計基準)。
 収益会計基準の適用は、2021年4月1日以後開始する事業年度からなので3年の準備期間があるのですが、多くの企業に共通する「売上」に関する新基準であることから、各企業は収益会計基準の内容の理解や実務への影響の把握を早急に行う必要があります。

2.収益会計基準の概要

 収益会計基準は、IFRS第15号の基本的な原則が取り入れられています。また、これまでわが国で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には、比較可能性を損なわせない範囲で「代替的な取り扱い」をいくつか認めています。この取り扱いに従えば、例えば通常の商品販売において、一定の要件のもと出荷基準が容認される扱い等が認められますので、どのような取り扱いがあるのかを知っておくことは重要です。

3.収益会計基準の適用時期

 原則、2021年4月1日以後の開始事業年度の期首から適用されますが、海外の親会社がIFRS第15号やTopic606を適用した場合の実務上の配慮から、①2018年4月1日以後開始事業年度の期首から、②2018年12月31日から2019年3月30日に終了する事業年度の期末から、早期適用を認めています。

4.収益会計基準の対象企業

 連結財務諸表を作成する際の連結調整にかかるコストを軽減できることから、個別財務諸表においても連結財務諸表と同一の会計処理が必要になります。その一方で、連結子会社の負担が増えることが懸念されますが、重要性などに関する代替的な取り扱いにより、実務への負担は軽減できるとしています。
 中小企業(金融商品取引法の対象会社・会社法上の会計監査人設置会社、以外の会社)については、「中小企業の会計に関する指針」「中小企業の会計に関する基本要領」が用いられていますが、これらに収益会計基準の規定は反映されません。なお、中小企業でも任意適用は可能です。

5.収益会計基準の適用範囲

 収益会計基準は、通常の営業活動から生じる収益について適用されます。通常の営業活動でない固定資産の売却取引により生じる収益については適用範囲に含まれません。また、契約から生じる収益であっても、以下の取引については、適用範囲には含めません。

  1. 「金融商品に関する会計基準」の範囲に含まれる金融商品に係る取引
  2. 「リース取引に関する会計基準」の範囲に含まれるリース取引
  3. 保険法における定義を満たす保険契約
  4. 顧客又は潜在的な顧客への販売を容易にするために行われる同業他社との商品又は製品の交換取引
  5. 金融商品の組成又は取得に際して受け取る手数料
  6. 「不動産流動化実務指針」の対象となる不動産(不動産信託受益権を含む)の譲渡

 次回は、収益会計基準の基本原則について解説します。

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プロフィール

公認会計士・税理士 岸田 泰治(きしだ やすはる)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
連結会計システム普及部会 部会長

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関西総合会計事務所

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