掲載日:2020.07.13

法人税法22条2項の「無償」の取引の定めの解釈

第1回 「無償」の取引の定めの立法過程

株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹

法人税法22条2項の「無償」の取引に関する定めについては、時価と実際の取引価額との差額の全額常に益金の額に算入する旨を定めたものであるという解釈をしているものが見受けられます。しかし、このような解釈は、誤っていると考えられます。
本コラムでは、22条2項は、無償又は低額の取引に関し、時価と実際の取引価額との差額の全額常に益金算入することとしたものではない、ということを確認します。

はじめに

 現在の法人税法は、昭和40年に制定されたもので、法人税法の中で最も重要な条文である22条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)も、同年に制定されています。この法人税法22条の中の2項は、益金の額に関する定めであり、次のとおりとなっています。

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 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。

 この22条2項の「無償」の取引に関する定めについては、従来から、その解釈に関する説や判決の中に、時価と実際の取引価額との差額の全額常に益金の額に算入する旨を定めたものであるという解釈をしているものが存在していましたが、平成30年度税制改正によって法人税法22条の2(収益の額)が新設されて、同条4項に資産の販売等に係る収益の額を資産の引渡し等の時の時価とするという定めが設けられたことにより、このように解釈する傾向が一層強まっているように見受けられます。
 しかし、このような解釈は、誤っていると考えられます。
 本コラムでは、22条2項は、無償又は低額の取引に関し、時価と実際の取引価額との差額の全額常に益金算入することとしたものではない、ということを確認してみます。
 なお、法人税法における「益金の額」に関しては、平成30年度税制改正によって22条2項と22条の2の2つの規定が存在するという異例の状態となったわけですが、本コラムにおいては、22条2項の「益金の額」について確認を行うこととしており、22条の2の「益金の額」や22条2項と22条の2との関係などについては言及しないこととしている、ということを予めお断りしておきます。

1.「無償」の取引の定めの立法過程の確認

 法人税法の改正案の作成が本格化した昭和39年から昭和40年1月7日の大蔵省主税局と内閣法制局による法人税法の改正案の最終読会までに作られた22条2項の案には、「有償又は無償による」や「無償による」などの「無償」の取引に関する文言は、全く出てきません。22条2項に「有償又は無償による」と「無償による」という文言が出てくるのは、昭和40年1月7日の最終読会の後となっています。

《参考》22条2項で、何故、無償の取引から収益が発生して益金算入されることとなっているのか、ということは、本コラムのテーマではありませんが、参考のために、大蔵省主税局が国会審議に向けて昭和40年2月に作成した「法人税法関係想定問答(第1次案)」における問と答の要旨を挙げておくと、「無償による資産の譲渡によつても収益が発生するか。その根拠を問う。」という想定の問に対し、「その時価に相当する対価を金銭で受取り、これを贈与したことと何等変るところがな〔い〕」と答えるものとされています。
 立法論を述べるということであれば、実際の条文の立法趣旨や立法過程などにかかわりなく、さまざまな見解があってよいわけですが、実際の条文の解釈を述べるということであれば、多くの場合、立法趣旨や立法過程の確認が必要となりますので、22条2項で、何故、無償の取引から収益が発生して益金算入されることとなっているのかということを考える場合にも、上記のような問と答が存在するということは、念頭に置いておくべきであると考えます。

 しかし、この最終読会の後に、「無償」の取引に関する定めがどのような過程を辿って現在のようなものとなったのかということを確認することができるものは、筆者が見た限りでは、何もありません。当時も、最終読会の後の条文案の修正は、元の案に修正記入を行うという方法で行われていた可能性が高いと思われますので、最終読会の後の過程を確認することができるものが見当たらないことも、納得できるところです。
 ただ、法案の国会提出を控えた最終読会の後の短い期間に、「無償」の取引に係る文言を挿入するなどという重要な変更を加えていることについては、実に驚くべきことと言わなければなりません。このような重要な変更を加える改正を行うためには、相応の検討期間が必要となりますので、最終読会の時点では、既に、「無償」の取引に関する取扱いをどうするのかということについて、相応の検討が済んだ状態となっていたものと考えられます。
 このような問題意識の下、更に時期を遡って法人税法の改正案を確認してみると、昭和38年に、次のとおり、「贈与をした場合の益金算入」という見出しを付して、「無償」の取引と「著しく低い価格」の取引においても益金算入額があるということを詳しく定めた条文の案が作られていたことが確認できます。

(贈与をした場合の益金算入)

第42条 法人が次の各号に掲げる場合に該当する場合には、当該各号に掲げる金額は、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

  • 一 無償で資産を譲渡した場合又は役務の提供その他の政令で定める経済的な利益を供与した場合 当該資産又は利益のその譲渡又は供与の時における価額(以下次号において「時価」という。)
  • 二 著しく低い価格の対価により資産を譲渡した場合又は前号に規定する経済的な利益を供与した場合において当該資産又は利益の時価と当該対価の額の差額に相当する金額のうちに贈与したものと認められる部分の金額があるとき当該贈与したものと認められる部分の金額

 この条文の案は、昭和40年の法人税法の改正に携っておられた吉牟田勲先生が「現行法人税法各条の立法過程の研究 25」(税務弘報Vol47 No1、118頁、平成11年)という論稿の中で紹介されていますので、見たことがあるという方もおられるものと思われます。
 吉牟田勲先生は、この条文の案について、「これが、法人税法第22条2項の無償による資産の譲渡又は役務の提供として益金の額の列挙へ変わったのである。」(「現行法人税法各条の立法過程の研究 25」118頁)と説明されておられます。
 この条文の案で注目すべきところは、2号において、単に「低い価格」による取引ではなく、「著しく低い価格」による取引について、益金の額に算入する金額があるとしていること、そして、時価と対価との「差額」の全額を常に益金の額に算入するのではなく、その「差額」に相当する金額の内に「贈与したものと認められる部分の金額」があるときに、「当該贈与したものと認められる部分の金額」のみを益金の額に算入するとしていること、この2つです。
 この条文の案の無償の譲渡に関して定めた1号には、2号にある「贈与したものと認められる部分の金額があるとき」という文言がありませんが、これは、1号においては「贈与したものと認められる部分の金額があるとき」であるのか否かということに関係なく益金算入額が算出されるということを意味するわけではなく、通常、無償の譲渡においては、わざわざ「贈与したものと認められる部分の金額があるとき」であるのか否かということを判断するまでもないためであって、仮に、無償の譲渡ではあってもそのような判断が必要となるというケースが出てきたとすれば、そのようなケースにおいては、そのような判断をして益金算入額が算出されることとなるはずです。
 この条文の案は、その内容から判断して、昭和25年に制定されて昭和40年に廃止された法人税基本通達77の寄附金の取扱いに対応する益金算入の規定として、資産の譲渡に関する取扱いに役務の提供を含む経済的な利益の供与の取扱いを加えた上で法案化したものと捉えてよいと考えられます。この法人税基本通達77は、次のとおりであり、その見出しにあるように、資産の贈与(無償の譲渡)を「著しく低い価額」の譲渡に含めた上で、「贈与」と「低額譲渡」の取扱いを定めたものでした。

(贈与又は低額譲渡)

七七 法人が有する資産を著しく低い価額で譲渡した場合には、当該譲渡価額とそのときにおける当該資産の価額との差額に相当する金額を相手方に贈与したものと認められるときは、当該差額に相当する金額は、これを寄附金として取り扱うものとする。

 この法人税基本通達77においては、「当該譲渡価額とそのときにおける当該資産の価額との差額に相当する金額を相手方に贈与したものと認められるとき」に「当該差額に相当する金額」を「寄附金として取り扱う」とされていますので、この法人税基本通達77が適用されるときには、「相手方」においても、「当該差額に相当する金額」が受贈益として益金算入されることとなります。
 上記の昭和38年の「贈与をした場合の益金算入」に関する条文の案においては、「相手方」という文言は存在しませんが、「贈与したものと認められる部分の金額がある」という文言があるということは、この条文が適用されるときは、相手方においても贈与を受けたものと認められる部分の金額があるということを意味しますので、この案は、法人税基本通達77と同様に、事実上、贈与又は低額譲渡等をした者と贈与又は低額譲渡等を受けた者の双方の取扱いを定めたものと言ってよいものです。

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プロフィール

税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)
株式会社TKC 顧問
日本税制研究所 代表理事

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税理士法人朝長英樹税理士事務所

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