更新日 2023.09.22

新リース会計基準の論点解説

第3回 新リース会計基準の実務対応課題【前編】

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TKC企業グループ会計システム普及部会会員

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

公認会計士・税理士 岸田 泰治

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

公認会計士・税理士 大谷 信介

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

公認会計士・税理士 宮嶋 芳崇

2016年にIFRS会計基準、米国会計基準で、リース取引に関する会計基準が公表され、日本でも2019年3月から、新リース会計基準の開発に着手してきました。
2023年5月2日に企業会計基準委員会から、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」が公表され、リース取引の会計処理について、国際的な会計基準との整合性を図ろうとしています。
「新リース会計の実務はどうなっていくの?」という視点から、今後想定される実務対応上の論点や課題を対話形式で解説します。

当コラムのポイント

  • リースの範囲拡大による影響
  • 新リース会計基準と会計・税務実務(法人税・消費税)
  • 財務諸表への影響と親子会社間取引の取扱い
目次

前回の記事 : 第2回 新リース会計基準の実務対応

 本コラムの第1回は「新リース会計基準の概要」、第2回では「新リース会計基準で想定される実務上の論点」を解説してきました。
 今回、新リース会計の実務は「どうなっていくの?」という視点から、対話形式で解説します。

【登場者のご紹介とコメント】

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 会員

公認会計士・税理士 岸田先生
 「新リースに関する税制への影響や実務上の課題を整理していきましょう。」

公認会計士・税理士 大谷先生
 「公開草案とIFRS16号の視点で色々お話しします。」

公認会計士・税理士 宮嶋先生
 「これからの税制改正がどうなるのかウォッチし、実務対応の方法を考えていきましょう。」

(左から、宮嶋先生、岸田先生、大谷先生)

(左から、宮嶋先生、岸田先生、大谷先生)

1.リースの範囲と識別

岸田先生:論点整理というところで、まず公開草案でリースの範囲が広がる状況ではございます。
さまざまな影響があると思うのですが、それについてご意見をいただけますか?

大谷先生:今まではファイナンス・リースのみをオンバランスすれば良かったのですが、リースの識別という概念が出て、リースの範囲は広くなったと思っています。
 特に不動産賃貸借取引があれば、基本的にはリースに該当するので、オンバランスが必要かと。これは影響が大きいと思います。

宮嶋先生:新リース会計基準では、出発点はリース契約ではなく、レンタルを含め、賃貸借契約がリースになる、とリースの概念を広げて考える必要があります。

岸田先生:基準にも書いてある通り、契約の中にリース取引があるのかという、リースの識別の話ですね。そういう識別の話になるかなと。いろんな契約に含まれている感じがするのですが、フローチャートがありますよね。

大谷先生:本コラム「第1回 新リース会計基準の概要」にフローチャートを載せています。
 担当者も監査人も、これに基づいて識別・判断するしかありません。

フローチャートの画像を開く

岸田先生:レンタカーと違って、サブスクで車を使用している場合、このフローチャートに照らしてみると、多分、資産が特定できますから、「リースを含む取引」には該当するでしょう。

宮嶋先生:結局、グループ会社を含め、そういった取引を含む契約の一覧を作ることがまずは必要だと思っています。
 特にグループ会社からリースに関する情報を得ようとしたら、毎月定額で払っている取引一覧をもらう必要があるかと。
 新聞や雑誌の購読料とかリストに上がってくるかもしれないけど、それはリースではないので親会社で除く、とか。毎月利用料を払っているソフトウェアについても、パッケージ化されたソフトウェアはリースにあたらないけれど、そういった取引も、一旦は一覧表には載せることも考えられます。

岸田先生:支払っている金額の中に、自社用にカスタマイズされた分があると、リース取引を含むかもしれません。
 また、データを外部サーバーに預けていて、そのサーバーを自社が独占的に利用している場合、リース取引になるかもしれません。
 設例にも、ネットワークサービスの例が載っています。リースの識別のための、取引内容の把握が難しいかもしれないですね。

大谷先生:一覧からリースに該当する取引を識別するにも、時間がかかりそうです。

岸田先生:子会社単体でやるべきなのか、連結仕訳で対応出来るものなのか?

宮嶋先生:公開草案では個別会計から適用となっていますから、子会社は会社法により決算書を作る必要があり、子会社も自分で仕訳計上が必要になると思われます。
 収益認識と同様、会社計算規則等が改正されると思われます。

大谷先生:リース債務を計上した瞬間に、負債が200億円を超えて大会社になってしまう可能性もありますね。

岸田先生:会計監査人を置く必要が出てきますね。

2.重要性

岸田先生:リースの範囲の次は、重要性の判断について伺います。300万円基準と、5千ドル基準が示されました。

大谷先生:現行基準を踏襲して、300万円基準、IFRS適用会社に配慮して、5千米ドル基準だと思います。
 300万円基準は「リース料総額」、5千米ドル基準は「当該資産の新品購入価額」に注意が必要です。

3.子会社の処理

岸田先生:割引現在価値、使用期間の見積もり、見積もりの変更等、子会社自身が計算できるのでしょうか?

宮嶋先生:もし仮に親会社でやろうとした場合には、決算スケジュール上、限られた時間で連結決算を終わらせるという観点からすると、連結補正では時間的に限界があるのでは?という点と、子会社から適切な情報をもらえるのか?という点に疑問が残ります。
 なので、連結に間に合うよう子会社で計上する、となる気がします。ただし、そうすると岸田先生がおっしゃる通り、子会社でそんな計算ができるのか?正確にできるのか?という疑問も発生するため、どちらでやるにしてもとても難しいハンドリングが要求されると思います。
 なお一見すると、子会社は、親会社との取引以外を資産計上して、親会社との取引は今まで通りの費用処理でいって連結で相殺処理するのでいいのでは?と思うこともあると思いますが、上記で述べた通り、会社法の観点からするとひっかかるケースもあるので留意が必要と思います。

大谷先生:なお、中小会計要領を使っていれば、子会社は使用権資産を計上しなくても良いと考えられます。

4.合理的利用期間

岸田先生:合理的利用期間の算定には、延長オプションを行使する可能性や、合理的に確実な判断が出来る期間等、「行使しない可能性と、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮して決定する。」とありますが、会社により判断基準がばらばらになる可能性がありそうです。

大谷先生:設例では、不動産賃貸借契約の場合、(設例8)、投資回収期間、物理的対応年数、地域における平均賃貸契約期間、事業計画、等を勘案して決めるようになっています。

宮嶋先生:早めに撤退する可能性もあり、出店計画、移転計画や、内装工事の償却期間も加味する必要があるかと。これより短いと、内装工事の償却期間の変更が必要になるかもしれません。
 また、定期借地権については延長が無理なので、期間は決まることになるでしょう。

5.新リース会計基準と法人税

岸田先生:「減価償却費+支払利息」の合計額と賃料の合計額は一致しますが、費用処理額は年度ごとに異なります。

宮嶋先生:会計処理上は特に難しくないと思いますが、法人税法上の取扱いがどうなるかについては、費用処理額の総額が変わらない場合などは、会計処理を許容するのか、そうではないのか、現状では判断が難しいですね。これからの法人税法の改正がどうなるかに留意が必要かと思います。

大谷先生:仮に法人税法が会計処理を認容するなら、例えば利用期間20年、利率年1%でシミュレーションすると、「減価償却費+支払利息」は、初年度で支払家賃の13か月分ほど、費用計上されます。最初の方は税金負担が軽くなりますね。

宮嶋先生:一方、賃貸借契約などを基に擬制して計上する使用権資産については、減価償却費を会計処理で計上したタイミングで損金算入できるのかという点も、現状の法人税法上に真正面から規定しているものがないと思うので、ここも法人税法がどう向き合っていくのか注目ポイントと思います。

※第4回 新リース会計基準の実務対応課題【後編】につづく

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