更新日 2026.02.02

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 足立 直之
研究開発費とは、企業が新製品や新技術、またはそれらの著しい改良を目的として行う「研究」や「開発」に係る費用を処理するための会計上の勘定科目です。当コラムでは、研究開発費の定義、企業会計と税務会計の会計処理の違いについて述べた後、ソフトウェアについてもその概要と会計処理について触れます。
当コラムのポイント
- 研究開発費の企業会計と税務会計の取扱い・会計処理の違いの解説
- ソフトウェアの属性(販売目的・自社利用)による取扱いの差異の解説
- ソフトウェアに関する様々な論点
- 目次
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前回の記事 : 第4回 特別償却と税額控除制度の比較について
1.「循環取引」とは
「研究開発費及びソフトウェアの会計処理」については、第1回目から第4回目まで、企業会計と税務会計上における取扱いの違いを中心に解説してきました。
第5回では、不正会計の一種である「循環取引」にソフトウェアが利用されるケースが少なくないことから、循環取引とソフトウェアの性質との関係について解説します。
「循環取引」とは、複数の企業が共謀して、実質的な商品やサービスの移動を伴わないまま取引を循環させ(例:A社 ⇒ B社 ⇒ C社 ⇒ A社)、売上を水増しするなどの不正会計を行う手法です。
2.なぜ「ソフトウェア」が使われやすいのか
ソフトウェアは、物理的な在庫や現物確認が難しく、実体が把握しにくい上、価格の妥当性の判断が困難です。また、使用実績がなく仕様書だけでも「ソフトウェア開発売上」として計上されるため、循環取引に極めて利用されやすい特性を備えています。
3.「ソフトウェア」と「循環取引」の例示
次に「ソフトウェア」と「循環取引」の例示として3つのパターンを紹介します。各パターン(①~③)について、資金は登場各社間で循環しており、相殺・貸付・前払金などにより実際の資金の移動はありません。
(1) 自社開発ソフトウェアライセンスの名義貸し型循環取引
A社が自社開発ソフトウェアのライセンスをB社へ販売、B社は同額でC社、C社はD社へと転売、最終的にD社からA社が同額で買い戻すケースです。この取引の中でB・C・D社はいずれもソフトウェアを利用せず、実質的な価値の移転はありません。
(2) 受託開発ソフトウェアの再委託循環取引
A社がB社にシステム開発を発注、B社がC社に再委託、C社がD社に再委託、D社が最終的にA社に再委託するという複数の会社間でシステム開発の委託の繰り返し(再委託)を行い、最終的に最初の会社に再委託されるという形態をとります。
この取引の問題点は、関係する各社が中間マージンを上乗せするため、中間マージン分である実体のない売上(架空売上)が膨らみ、中間マージン分の総計がA社の負担となります。
(3) クラウド・SaaS利用権の転売循環取引
A社が自社開発SaaS(Software as a Service)の利用権をB社に提供、B社が同じSaaS利用権をC社へ転売、C社が別名目(コンサルティング費、広告宣伝費、業務委託費等)でA社に支払うという形態になります。
実務上の問題点として、利用アカウント数と売上が一致しない、ログイン履歴が不自然、同一IP・同一管理者で複数社利用されるということがあります。
4.会計上の問題点
循環取引の会計上の問題点として、次の事項があります。
(1) 収益認識基準違反
実際には、販売先への支配移転がないことから経済的価値の移転もなく、売上計上要件を満たさないため、収益として認識できません。
(2) 架空売上・粉飾決算
実態のない売上・利益であることから、販売側は架空売上、仕入側は虚偽の仕入(架空経費)の計上となり、粉飾決算により財務諸表が虚偽となるだけでなく、脱税となり、法人税法違反となる可能性があります。
5.発覚時のリスク
循環取引が発覚した際には、役員の責任追及、刑事責任、取引先を巻き込んだ訴訟・賠償問題、上場廃止など、グループ全体や業界全体への信頼低下につながります。
6. 日本で多い背景と循環取引の実際に生じた事例
IT・ソフトウェア業界は「下請・多重委託構造」や「業界慣行がブラックボックス化しやすい」という背景のもと、「成長企業を装いたい」や「上場維持・銀行対策」という要請のため、「ソフトウェアを用いた循環取引」という不正会計が繰り返し発生しています。
循環取引の実際に生じた事例として以下のようなものがあります。
(1) M社事件
ソフトウェアライセンスの循環取引により売上を水増し、複数の関連会社間で実体のない取引を繰り返していました。
(2) S社事件
ITシステムやソフトウェアの開発・販売を装った循環取引で、実際には開発実態がないプロジェクトを複数社間で転売していました。
(3) I社事件
システム開発会社が複数の企業と共謀し、実体のない取引を繰り返して売上を水増ししました。
(4) T社事件
上場会社の子会社T社が複数の親密会社とともに、製品やサービスの実体がないまま帳簿上と資金だけを回す循環取引に関与していました。
(5) O社事件
AIサービスのライセンスを販売代理店に販売したとして売上を計上していましたが、実際にはエンドユーザーへのアカウント発行がほとんどなく、実態のない売上で、広告宣伝費や研究開発費として支出した資金を広告代理店等を経由して販売代理店に戻し、販売代理店がその資金でライセンスを購入した形にするスキームにより資金を循環させていました。
7.不正会計の防止策
ソフトウェアの循環取引が発生しやすい背景として、次の事項が挙げられます。
- ソフトウェアは無形資産であり、実在性の検証が難しい
- カスタマイズやライセンスの契約形態が複雑で、売上計上基準が曖昧になりやすい
- 業界全体が案件ベース・大型プロジェクト依存であるため、売上の平準化圧力が高い
- パートナー企業を多数抱えるため、相互売買が構造的に発生しやすい
これらのことを原因として循環取引が発生することになります。
ソフトウェアの循環取引の未然の防止の体制構築が重要になります。また、防げなかった場合に適時に発見できる仕組みの構築も必要です。
その方法としては内部統制と取引の特殊性から以下の(1)(2)が考えられます。
(1) 内部統制面の防止策
内部統制面の防止策については次の事項の設定が重要となります。
- ① 職務分掌の厳格化
循環取引では「一人(又は一部署)が全体を把握できる」ことが温床になることから、営業部門が「売上計上可否」を判断できない体制にすることが重要であり、次の各プロセスについては分離させることが望まれます。
営業(契約交渉)⇒ 契約(法務・経理)⇒ 売上計上(経理)⇒ 請求・入金管理 - ② 取引先の実体確認手続の導入
循環取引では、名目的な取引先や関係会社が使われることが多いため、取引の始まる前に次の事項の確認を行うことが肝要です。- 取引先の事業内容と当該ソフトウェアの合理性
- 取引先の実際の利用部署・利用目的
- 取引先が関係会社であるか等自社との資本関係
- 自社と取引先の役員関係の有無
(2) ソフトウェア特有の会計・契約面の防止策
- ① 収益認識基準の厳格運用
ソフトウェアの取引においては、「契約書が存在するから売上計上となる」との判断は循環取引を引き起こしかねないため、収益認識基準を厳格に適用し、次の事項の確認が必要です。- 取引における履行義務は本当に充足しているか
- ソフトウェアの使用権は顧客に移転しているか
- 返金・買戻し・相殺合意が存在しないか
- ② 取引データの異常検知(データ分析)
循環取引はパターン化しているため、以下の事項を重点的にチェックすることで循環取引が検知できる場合があります。- 同一金額・同日・同月末集中
- 特定取引先との売上・仕入の同時発生
- 年度末に集中する大型ソフトウェア売上
了
この連載の記事
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2026.02.02
第5回(最終回) ソフトウェアと循環取引
-
2025.11.17
第4回 ソフトウェアの導入費用の取扱い
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2025.10.06
第3回 自社利用のソフトウェアの定義と会計処理等(企業会計と税務会計の違い)
-
2025.09.08
第2回 市場販売目的のソフトウェアの定義と会計処理等(企業会計と税務会計の違い)
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2025.08.25
第1回 研究開発費の定義とその会計処理(企業会計と税務会計の違い)
プロフィール
税理士・公認会計士 足立 直之(あだち なおゆき)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
- 略歴
- Big4系の監査法人で財務諸表監査、内部統制監査に携わり、IT統制を含めた内部統体制の構築支援、連結会計システムの導入コンサルティングを実施。その後、グローバル企業に出向し、公認会計士監査の監査対象の重要性から外れる国内外の子会社の会計監査を実施。現在は、税務業務、法定監査、会計コンサルティングに携わる。
- ホームページURL
- デルソーレ税理士法人 三鷹支店
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