初歩から学べる管理会計

第2回 伝統的な原価計算

更新日 2026.05.18

税理士・公認会計士 川崎 要介

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC全国会 中小企業支援委員会委員

税理士・公認会計士 川崎 要介

法的な根拠に基づき外部の利害関係者に提供されることとなる財務会計とは異なり、経営者の意思決定に役立てるための会計である管理会計について、その意義と管理会計の代表例を解説していきます。

当コラムのポイント

  • 管理会計の役割と制約
  • 伝統的な原価計算と新しい原価計算
  • 予算管理と変動損益計算書
目次

前回の記事 : 第1回 管理会計とはなにか

1.原価計算の意義

 今回は、管理会計の一例として原価計算を例にとり、その意義を紐解いていくことにしましょう。
 原価計算は、18世紀後半から19世紀初頭にかけての産業革命が契機となって発明されました。さらに、鉄鋼、鉄道、機械等の重工業が盛んになった19世紀後半から20世紀初頭にかけては、実際原価計算や標準原価計算といった方法が体系化されるなど飛躍的な進歩を遂げることとなります。
 原価計算が日本において制度的に明確に定義されているのは企業会計審議会が公表している「原価計算基準」(以下「基準」といいます。)です。基準では、原価計算の目的として以下の5点が明示されています。

  • ① 財務諸表の作成:売上原価や棚卸資産を算定し、損益計算書や貸借対照表に反映する。
  • ② 価格計算:製品やサービスの価格設定に必要な原価情報を提供する。
  • ③ 原価管理:標準原価や原価予算を用いた差異分析を通じて、コスト削減や効率化を図る。
  • ④ 予算管理:経営計画や予算編成に必要な原価情報を提供する。
  • ⑤ 経営上の意思決定:製品組合せ、自製・外注の選択、設備投資などの意思決定を支援する。

 これらのうち、「① 財務諸表の作成」に関しては、財務会計的な目的として捉えることができますが、それ以外の②から⑤の目的については、社内の経営管理に資するものとして、企業の経済活動を支える基盤を提供していくという観点から管理会計的な目的である、といえるでしょう。原価計算基準においては、原価計算に関して画一的な手続を強制しておらず、企業の業種や規模に応じた柔軟な適用を認めています。これにより、原価計算を活用する各企業は、それぞれの判断において実状に即した原価計算の仕組みを主体的に構築することが可能となっています。

2.伝統的な原価計算の手法

 伝統的な原価計算は、原価計算基準に基づく実際原価や標準原価の算定に重点を置き、また間接費の配賦や原価の集計が体系的であるという特徴があります。また、管理会計上の意義のみならず、財務諸表の作成に直結するという点で、財務会計上も重要な意義があります。
 以下、伝統的な原価計算のうち代表的なものを見ていきましょう。

(1) 個別原価計算

 個別原価計算は、個々の製品や注文ごとに原価を計算する手法です。受注生産や特注品など、製品が個別に識別可能な場合にしばしば用いられます。

図 個別原価計算のフローチャート

個別原価計算のフローチャート

 個別原価計算は、直接費(材料費、労務費、経費)と間接費(製造間接費)を各注文に関連づけて集計する点に特徴があります。直接費については、各注文ごとに直接的に集計され、間接費は、作業時間や機械時間などの一定の配賦基準を用いて、複数の注文に割り当てます。

(2) 総合原価計算

 総合原価計算は、連続生産や大量生産のプロセスにおいて、同一の製品を大量に生産する場合にしばしば用いられます。一定期間の総原価を生産量で按分して、製品一単位当たりの原価を算定することが可能です。

図 総合原価計算のフローチャート

総合原価計算のフローチャート

 総合原価計算は、原価を工程ごとに集計し、その原価を完成品と期末仕掛品に按分します。製品一単位当たりの原価の算出にあたっては、平均法や先入先出法などを用いて計算が行われます。

(3) 標準原価計算

 標準原価計算は、あらかじめ設定した標準的な原価(標準消費量×予定価格)を基準として原価を把握し、実際原価との差異を分析する手法です。個別原価計算や総合原価計算が、原価の集計や製品原価の算定に重点を置いているのに対し、標準原価計算は、原価管理や業績評価に重点を置いており、より管理会計的な特徴を有している手法といえるでしょう。

図 標準原価計算のフローチャート

標準原価計算のフローチャート

 標準原価は、正常な操業度や効率的な生産条件を前提に設定します。差異分析(材料費差異、労務費差異、間接費差異)を行うことにより、想定コストの超過の有無や、製造プロセスの非効率性を特定することが可能になります。これにより、原価管理上の課題を明確化し、改善に向けた具体的な対応につなげることができます。

(4) 直接原価計算

 直接原価計算は、原価を変動費と固定費に分け、変動費(直接材料費、直接労務費など)のみを製品原価に含める手法です。主に内部管理目的で使用されます。

図 直接原価計算のフローチャート

直接原価計算のフローチャート

 直接原価計算においては、生産量と関わりなく発生する製造間接費を固定費として捉え、これを製品(完成品、仕掛品)原価に算入せず、期間費用として処理します。そのため、製品の採算性分析、限界利益の計算などが可能になることから、経営者の意思決定に有用な情報を提供する原価計算であるといえます。

3.伝統的な原価計算は万能ではない

 これまで見てきたような伝統的な原価計算の手法は、たとえば製造業における単一製品の製造や大量生産といった活動の表象には適しているといえるでしょう。しかしながら、現代の企業活動においては、少量多品種製品のニーズ増大、サービス産業の拡大、技術革新、環境コストの集計の必要性といった伝統的な原価計算では対応が困難な経営課題が現れてきています。
 次回は、こうした現代の新しい経営課題に対応するために登場してきた、新しい原価計算の手法について見ていくこととしましょう。

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士・公認会計士 川崎 要介

税理士・公認会計士 川崎 要介(かわさき ようすけ)

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