新リース会計基準への実務対応-連結会計と不動産賃貸借取引を中心に-

第3回(最終回) 不動産賃貸借取引の取扱い

更新日 2026.04.27

公認会計士・税理士 田中 祥孝

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ会計システム普及部会会員

公認会計士・税理士 田中 祥孝

新リース会計基準の適用開始を見据え、企業実務においては、契約の識別やリース期間の見積り、社内連携体制の整備など、従来以上に幅広い対応が求められます。本コラムでは、新基準の概要を整理したうえで、親子会社間リース取引における連結会計上の留意点や、不動産賃貸借取引における判断実務を解説しています。設例や図表も交えながら、制度理解にとどまらず、実務対応における着眼点を分かりやすく整理しています。

当コラムのポイント

  • 新リース会計基準の概要
  • 連結会計における実務対応
  • 不動産賃貸借取引の取扱い
目次

前回の記事 : 第2回 連結会計における実務対応

3.不動産賃貸借取引

(1) リースの識別

 新リース会計基準の適用にあたり、特に慎重な検討が求められる分野の一つが、不動産賃貸借取引です。従来は、建物やオフィスの賃貸借について、賃借料として費用処理を行う実務が一般的でした。しかし、新基準では、不動産賃貸借であることだけを理由に会計処理を判断することはできず、個々の契約ごとにリースに該当するかどうかを識別する必要があります。
 不動産賃貸借契約がリースに該当するかどうかは、①対象となる資産が特定されているか、②その使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを借手が享受しているか、③借手がその使用を指図する権利を有しているか、という観点から検討します。例えば、所在地や面積が明確に定められた専用オフィス区画を一定期間使用し、その利用方法について借手が実質的に決定できるのであれば、リースに該当する可能性が高いと考えられます。
 一方で、貸手が実質的な入替権を有しており、借手が使用するスペースが固定されていない場合や、共用スペースの利用にとどまる場合などには、リースに該当しないこともあり得ます。ただし、この判断にあたっては、契約書の文言だけでは十分ではありません。契約上は貸手に変更権限があるように見えても、実際には代替スペースが存在せず、現実的に入替えが予定されていないケースもあります。また、用途制限がある場合であっても、その範囲内で借手がレイアウトや設備配置、運用方法を決定しているのであれば、使用の指図権は借手にあると判断されることがあります。
 このため、不動産賃貸借の検討においては、法務部門が管理する契約書の確認にとどまらず、実際の利用状況を把握している総務部門や現場部門からの情報収集も不可欠です。契約条件と使用実態の双方を踏まえて総合的に判断することが、新基準への適切な対応につながります。

(2) リース期間の決定

 また、不動産賃貸借においては、リース期間の判断も重要な論点となります。オフィスや店舗については、契約書上は短期の更新制であっても、実務上は長期間の継続利用を前提としているケースが少なくありません。そのため、形式的な契約期間のみ依拠するのではなく、更新オプションの行使可能性(蓋然性)や移転コスト等を踏まえ、合理的に確実と認められる期間を見積もる必要があります。特に、移転に伴う内装工事費、原状回復費用、営業継続への影響などを総合的に考慮した結果、更新オプションの行使が合理的に確実と判断される場面も少なくありません。

(3) リース・非リースの区別

 さらに、不動産賃貸借契約には、共益費や管理費、各種サービス提供の対価など、リース要素と非リース要素が混在していることが一般的です。この場合、どこまでをリース料として把握し、どこからをサービス対価として区分するかが実務上の論点となります。また、契約内容によっては、固定賃料に加えて指数連動型の賃料改定条項や解約違約金条項等が含まれていることもあり、これらはリース負債の当初測定やその後の再測定に影響を及ぼします。不動産契約は件数が多く、金額も大きくなりやすいため、こうした論点の見落としが財務諸表全体に与える影響も決して小さくありません。

(4) 実務対応

 以上のように、不動産賃貸借取引は、新リース会計基準において特に重要な検討対象となります。従来の実務慣行に基づいて一律に処理するのではなく、契約ごとの内容と実態を個別に確認し、必要に応じて会計処理を見直すことが求められます。特に、本社オフィス、支店、店舗、倉庫など、事業上継続的に使用している不動産については、影響額が大きくなる可能性が高いため、優先的に検討を進めることが適切です。
 なお、不動産賃貸借が連結グループ内取引である場合には、借手側の個別財務諸表において使用権資産・リース負債を計上していたとしても、連結上は内部取引として相殺消去を行う必要があります。貸手が自ら所有する不動産を賃貸しているケースでは、貸手においてはオペレーティング・リースとして賃貸借処理が行われることが多いと考えられるため、借手が新リース基準に基づいて計上した仕訳を取り消したうえで、従来の賃貸借処理に引き直し、連結相殺消去を行うことが想定されます。

第2回コラム <設例>の追加前提条件

実務対応

4.おわりに

 新リース会計基準への対応においては、会計基準そのものの理解にとどまらず、契約内容の把握、関連部署からの情報収集、グループ内でのデータ連携、連結修正ルールの整備など、実務面での準備が極めて重要となります。特に、親子会社間リース取引と不動産賃貸借取引は、判断や測定に関する論点が集中しやすく、適用初年度に個別対応のみで乗り切ることは容易ではありません。
 そのため、今後の実務においては、対象契約の洗い出しを起点として、論点整理、会計方針の文書化、連結パッケージの整備、関係部署との役割分担の明確化といった準備を、段階的かつ計画的に進めていくことが求められます。新リース会計基準は、単なる会計処理の変更だけでなく、契約管理や決算実務の在り方そのものを見直す契機となるものといえるでしょう。

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公認会計士・税理士 田中 祥孝(たなか よしたか)

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