更新日 2026.08.03

株式会社 KPMG Forensic & Risk Advisory
マネージングディレクター
公認会計士 林 稔
従前より、子会社(特に海外子会社)の不正に悩む日本企業が後を絶ちません。そこで、当コラムにおいて、5回にわたり近年の不正事例の傾向や注意すべき法規制の動向、不正の原因および必要な対策とその実務事例を解説します。
当コラムのポイント
- 最近の傾向として、経営者不正が増加している
- 国内外の内部通報や取引先管理に係る法規制には注意を要する
- 不正の最大の原因は「一人仕事」であり一人仕事対策が不正対策の基本だが、今後はデータを有効に活用したモニタリング手法の高度化が必要不可欠な時代となる
- 目次
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前回の記事 :第2回 最近の注意すべき法規制の動向と必要な対策
1.主要な原因は「一人仕事」
(1) 不正発生の主要な原因
不正発生の主要な原因は、国内外を問わず、KPMG Forensic & Risk Advisory(以下、「弊社」といいます。)が「一人仕事」と呼ぶ状況です。「一人仕事」とは、職務分離や内部牽制が確保されていない状況であり、特定の業務を一人で完結できてしまう状況です。例えば、購買取引においては発注者・検収者・支払承認者・支払処理者など、本来は別々の担当者が担うべき役割を、人員規模の小さい組織では、発注・検収・支払承認や支払処理を同一人物が担いがちです。このような状況を「一人仕事」と弊社では呼んでいます。「一人仕事」の状況では、不正行為が容易に実施可能であるため、十分かつ適時な事後モニタリングがなければ、発見されない可能性が高まります。
弊社が実施した「Fraud Survey 2024(日本企業の不正に関する実態調査)」でも、「不正が発生した根本原因」の問いでは、「属人的な業務運営」が回答の第一位でした。
出典:KPMG Forensic & Risk Advisory「Fraud Survey 2024(日本企業の不正に関する実態調査)」
(2) 不正による被害の傾向
不正による被害については、従前より一定の傾向があります。職位の低い担当者レベルによる不正の件数は非常に多いものの、1件当たりの被害額は少額なケースが多いです。一方、職位の高い経営者・幹部による不正の件数は少ないものの、1件当たりの被害額は重大となるケースが多いです。
この点は、前述の「Fraud Survey 2024(日本企業の不正に関する実態調査)」における「不正の内容と損害額との関係」の回答結果も同様の傾向ですし、公認不正検査士協会(ACFE)がリリースしている「2024年度版 職業上の不正に関する国民への報告書」によると、「オーナー/経営幹部による不正は従業員による不正の7倍の損失中央値」とされている他、「3人以上が共謀した不正は単独犯による不正の4倍以上の損失額をもたらす」とされています。この点は、経営者・幹部は、外部の取引業者の選定権限を有することが多く、外部の取引業者と共謀して不正を行うチャンスがあり得るという点からも理解できる傾向です。
出典:公認不正検査士協会「2024年度版 職業上の不正に関する国民への報告書」
2.今後の海外事業戦略を踏まえ必要となる対策の方向性
(1) 従前までの海外事業戦略の限界
これまで多くの日本企業は、世界最大の市場規模を誇る米国に進出してきたほか、中国やタイなどの東南アジア諸国への進出を図ってきました。特に、中国やタイなどの東南アジア諸国は、人口の増加や経済成長、日本との時差が短い点などがあり、非常に魅力的な市場でした。しかし、中国やタイなどの国々では、日本と同様に、近い将来に少子高齢化の時代を迎え、人口増加に陰りが見え、経済も従前のような高成長を期待することは難しい状況です。これが1点目の限界です。
また、グローバル全体で最適なサプライチェーンの構築を目指すことが重要とされてきましたが、気候変動による重大災害の発生が世界的に増えつつあり、サプライチェーンの寸断が頻発しています。さらに、大国間の対立、地政学的リスクの高まりによる戦争・紛争の事業への悪影響、米国の関税政策などの予期せぬ法制度の変更、感染症発生リスクの高まり等により、想定外のコストや損害が生じるリスクや事業中断のリスクが高まっています。これが2点目の限界です。
(2) 今後の海外事業戦略の重要ポイント
1点目の限界については、多くの日本企業が進出してこなかったものの、今後の人口増加や経済成長が期待できる国・地域に進出することが重要となります。しかしながら、いきなりアフリカ地域に進出するといったことの前に、例えば、インド、パキスタンなどの人口増加や一人当たり所得の増加が期待されている国を検討することは選択肢の一つといえます。ただし、こうした国々では、不正リスクや贈賄リスクなどが懸念されることが多いため、いかにコンプライアンス上の重要問題を防止しながら、事業の成長を図るかが非常に重要なテーマとなります。
2点目の限界については、今やグローバルサプライチェーンの構築や継続の舵取りが非常に困難な状況にあるとの認識に立ち、コストパフォーマンスに重点を置いた戦略から、安定した部品供給等ができるようなリスク回避型の地産地消サプライチェーンへの変革が必要といえます。地産地消を進めるためには、取引先も日系企業だけでは十分とはいえなくなるため、現地国の地場の事業者との取引を増やさざるを得ません。そのため、見知らぬ国の未知の事業者に対するリスク判断力の向上が非常に重要なテーマとなります。
3.推奨するすぐに実施可能な実務事例
(1) データ活用型の取組み事例
第4回のコラムにおいて、次の3つの取組み事例を紹介します。次の①は会計不正対策として、②は会計不正や横領・着服・利益相反取引による不正に有効です。③は見知らぬ国の未知の事業者に対するリスク判断力の向上に有効な取組みです。
- ① 決算データ分析
- ② 仕訳データ分析
- ③ インテリジェンス調査
(2) 不正リスク・贈賄リスク対策に有効な取組み事例
第5回のコラムにおいて、次の3つの取組み事例を紹介します。次の①②は不正対策として、③は実務的な贈賄リスク対策として有効です。
- ① 一人仕事調査票の取組み
- ② マネジメントブックの取組み
- ③ 贈賄リスク対応ガイドラインの整備・運用
〈 第4回へつづく 〉
この連載の記事
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2026.08.03
第3回 国内外に共通する不正の原因と今後に重要かつ必要な対策
-
2026.07.10
第2回 最近の注意すべき法規制の動向と必要な対策
-
2026.06.25
第1回 最近の国内外の不正リスク事例の傾向と注意点
テーマ
プロフィール
公認会計士 林 稔(はやし みのる)
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マネージングディレクター
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