更新日 2021.08.02

株式交付制度の税制措置の解説と検証

第3回(最終回) 株式交付税制の検証-適用される法人税法の規定-

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹

令和3年度税制改正により、株式交付の取扱いに関する税制措置が設けられました。
株式交付の法制度は、かなり柔軟な制度となっており、また、株式交付の税制も、緩やかなものとなっています。このため、株式交付は、今後、多くの場面で使われるようになる可能性が高いと考えられます。しかし、株式交付の税制には、株式交付が「現物出資の一種」であるのか否かという疑問があったり、法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)が適用されるのか否かという疑問があります。
本コラムにおいては、株式交付の法制と税制の概要を確認するとともに、このような疑問について見解を述べることとします。

3.株式交付に適用される法人税法の規定

 株式交付税制の創設に伴って話題に上ることが多い法人税法の規定を二つだけ取り上げて検証を行うこととします。

(1) 法人税法施行規則35条(確定申告書の添付書類)

 法人税法施行規則35条5号と6号に、株式交付に関する文言が追加されていますが、同条6号に新たに追加された添付書類は、他の組織再編成については添付が求められていない書類であるため、実務家の方々から、株式交付についてだけ、そのような書類の添付が求められる理由は何かという疑問の声が聞かれます。
 加えて、法人税法施行規則35条5号と6号は、株式交付は「現物出資の一種」であるのか否かという、第2回の2で検証を行ったこととも関連する問題を具体的に確認できるものの一つとなっています。
 この法人税法施行規則35条5号と6号は、次のとおりです。

 組織再編成(合併、分割、現物出資(新株予約権付社債に付された新株予約権の行使に伴う当該新株予約権付社債についての社債の給付を除く。)、法第2条第12号の5の2(定義)に規定する現物分配(次号において「現物分配」という。)、株式交換又は株式移転をいう。次号において同じ。)に係る合併契約書、分割契約書、分割計画書、株式交換契約書、株式移転計画書、株式交付計画書その他これらに類するものの写し

 組織再編成(株式交換、株式移転及び株式交付を除く。)により当該組織再編成に係る合併法人、分割承継法人、被現物出資法人若しくは被現物分配法人その他の株主等に移転した資産若しくは負債の種類その他当該組織再編成に係る主要な事項又は組織再編成(現物分配にあつては、適格現物分配に限る。)により当該組織再編成に係る被合併法人、分割法人、現物出資法人、現物分配法人、株式交換完全子法人の株主、株式移転完全子法人の株主若しくは株式交付子会社(会社法第774条の3第1項第1号(株式交付計画)に規定する株式交付子会社をいう。以下この号において同じ。)の株主から移転を受けた資産若しくは負債の種類その他当該組織再編成に係る主要な事項に関する明細書(株式交付に係る株式交付子会社の株主から資産の移転を受けた場合には、当該株式交付子会社の株主に対して交付した株式その他の資産の数又は価額の算定の根拠を明らかにする事項を記載した書類を含む。)

 まず、法人税法施行規則35条6号の「株式交付に係る株式交付子会社の株主から資産の移転を受けた場合には、当該株式交付子会社の株主に対して交付した株式その他の資産の数又は価額の算定の根拠を明らかにする事項を記載した書類」が添付書類とされたのは何故なのかということですが、このような内容の書類は、株式交付以外の組織再編成においても作成されるものであって、株式交付に固有のものではありませんので、株式交付についてのみ、そのような書類の添付が求められているということは、株式交付には、他の組織再編成とは異なり、そのような書類の添付を求めるべき特別な理由があると判断されたということを意味します。
 その理由が何であるのかということを考えてみると、株式交付の法制度がかなり柔軟な制度となっており、しかも、租税特別措置法66条の2の2で設けた株式交付の税制度もかなり緩やかなものとなっていることから、株式交付が租税回避に利用される懸念があり、それを牽制するためであると考えられます。
 つまり、株式交付に関しては、他の組織再編成以上に、租税回避の手段として用いられるおそれがあると捉えられているということです。
 このため、納税者及び税理士としては、株式交付がそのように捉えられているということをよく認識した上で、株式交付制度を利用する必要があります。
 また、法人税法施行規則35条5号においては、「組織再編成」の中に、「現物出資」を含めていますが、「株式交付」は含めておらず、「組織再編成」の中に「株式交付」を含めないまま組織再編成に係る「株式交付計画書」の添付を求めることとしています。このような定め方は、株式交付が「現物出資」に含まれるという解釈を採った場合の定め方ということになります。株式交付は「現物出資」には含まれないという解釈となった場合、法人税法施行規則35条5号の株式交付に関する部分をどのように解釈するべきであるのかということは、かなりの難問とならざるを得ません。
 一方、法人税法施行規則35条6号においては、「又は」以下の「組織再編成」について定めた部分で、「現物出資法人」を挙げながら、「株式交付子会社(会社法第774条の3第1項第1号(株式交付計画)に規定する株式交付子会社をいう。…)の株主」も挙げています。株式交付が「現物出資の一種」であるとすれば、株式交付子会社の株主は「現物出資法人」に含まれることとなりますので、法人税法施行規則35条6号に「株式交付子会社〔中略〕の株主」という文言を追加することとはならないはずです。法人税法施行規則35条6号以外にも、同規則27条の3(有価証券の譲渡損益の発生する日)の7号と新15号(注8)のように、既に存在する「現物出資」に関する定めに加えて、新たに「株式交付」に関する定めを設けて二つの定めが存在するという状態になっているものもありますが、そのようなものについては、その解釈に疑問が生ずる可能性がないとは言い切れないように思われます。

(注8)法人税法施行規則27条の3第7号は、「自己を現物出資法人とする適格現物出資に該当しない現物出資」について、有価証券の譲渡益の発生する日を「当該現物出資の日」と定めており、同条新15号は、「その有していた株式を発行した法人を会社法第774条の3第1項第1号に規定する株式交付子会社とする株式交付」について、同じく「当該株式交付の日」と定めています。この「現物出資の日」と「株式交付の日」が同じ日となるのか否かということに関しては、疑問なしとしないように思われます。

 また、仮に、株式交付が「現物出資の一種」であるとすれば、法人税法において「現物出資」という文言が用いられているところは、全て「現物出資」を「株式交付」と置き換えて株式交付にも適用されるということになりますが(注9)、そうした場合に、全ての条文が適切な取扱いを示すものとなっているのか否かということ、そして、株式交付は現物出資とは異なるという司法判断が下された場合に、株式交付が「現物出資の一種」であるという解釈に基づいて定められた条文がどのような解釈となるのかということなども気になるところです。

(注9)株式交付が「現物出資の一種」であるとすれば、租税特別措置法66条の2の2の特例の適用を受けるのか否かということとは別に、株式交付について、適格現物出資となるのか否かということを判定して適格現物出資となるものとならないものとに区分し、それぞれの区分ごとに法人税法の該当条文を適用することが必要となるということに留意する必要があります。

(2) 法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)
 株式交付に関して最も重要な問題となるのは、法人税法132条の2が適用されるのか否かということであると思われます。
 株式交付が「現物出資の一種」であれば、法人税法132条の2が適用されることになりますし、株式交付が「現物出資の一種」ではないということであれば、同条は適用されず、租税回避として課税が行われる場合には、同法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)が根拠条文とされることになります。
 法人税法132条の2の適用の判断基準は濫用潜脱基準(行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編成税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるのか否かということを判断基準として同条の適用の有無を判断するというもの)となっており、同法132条の適用の判断基準は経済的合理性基準(専ら経済的、実質的見地において、行為又は計算が純粋経済人として不合理、不自然なもの(経済的合理性を欠く)と認められるのか否かという客観的、合理的基準に従って同条の適用の有無を判断するというもの)となっていますので、どちらの条文の適用対象となるのかにより、結果が異なることがあり得ますし、課税を受けないように備える場合の備え方にも違いが出てきます。
 そして、近年の裁判事例を見てみると、法人税法132条の適用の可否が争われたIBM事件とユニバーサルミュージック事件では、いずれも国側が敗訴するという結果になっており、一方、同法132条の2の適用が争われたヤフー事件、IDCF事件とTPR事件では、いずれも国側が勝訴し、同条の適用が争われた事件では全て国側が勝訴するという結果になっています。
 このような事情にあることからすると、納税者としては、法人税法132条のみが適用される可能性があるのか、あるいは、同法132条の2も適用される可能性があるのかということに関心を持たざるを得ません。
 株式交付の事案に法人税法132条の2を適用して課税が行われて争いとなるか、または、株式交付の事案に現物出資の取扱いについて定めた条文を適用できるのか否かということなどが争いとなれば、株式交付が「現物出資の一種」であるという解釈が正しいのか否かということに司法判断が下されることとなりますが、それまでの間は、株式交付に法人税法132条の2も適用される可能性があるという前提に立って、対応を考える必要があると考えられます。
 そうすると、まず、濫用又は潜脱となっているのか否かを判断する規定がどの規定となるのかということを確認しておく必要がありますが、その規定は、現物出資の取扱いについて定めた法人税法の規定(一部、株式交付についても定めた規定がありますので、そのような規定も含みます。)又は租税特別措置法66条の2の2ということになります。
 現物出資の取扱いについて定めた法人税法の規定については、従来どおり、その趣旨目的を確認し、法人が株式交付を用いて行ったことがその趣旨目的に反する濫用潜脱となっていないかということを判断すればよいということになります。
 一方、租税特別措置法66条の2の2については、第2回の1において述べたとおり、「株式対価M&Aを促進するため」ということが趣旨目的であることに疑いはないものの、それのみを趣旨目的と捉えることで済むのかという疑問が残ります。租税特別措置法66条の2の2の趣旨目的は「株式対価M&Aを促進するため」ということですから、個別規定の趣旨目的に反するものに個別規定の濫用潜脱であるとして課税を行うこととされている法人税法132条の2は、「株式対価M&Aを促進する」ことになっていないものに適用されるということになりますが、そうであるとすれば、現実には、同条の適用対象となるものは、非常に限定されたものとなります(注10)。

(注10)租税特別措置法66条の2の2は同族グループ内で適用することを予定しておらず同族会社同士が同条を適用して親子会社となることは同条の趣旨目的に反するのではないかと考える向きもあるかもしれませんが、同条を同族グループ内の法人が親子会社となるものに適用させないようにしようとすれば、株式交付について「同族会社間で行うものを除く。」という制限を付せば簡単にその目的を達成することができるにもかかわらず、そのような制限を付していません。
 このため、租税特別措置法66条の2の2は、同族グループ内でも適用することを予定しており、同族グループ内の法人が親子会社となるものに同条を適用したとしても、同条の趣旨目的に反することとはならない、と解するべきです。

 このように、租税特別措置法66条の2の2が適用されるものに法人税法132条の2を適用するということになると、必然的に、その適用対象は、他の組織再編成を行ったものに同条を適用する場合よりも、限定的にならざるを得ないわけですが、このような事態は、株式交付税制の企画立案を行った者が想定していたこととは正反対の事態ではなかろうかと感ずるところです。
 租税特別措置法66条の2の2の趣旨目的が何かということは、法人税法132条の2の適用の有無を判断する場合に、その判断基準ともなるもので、非常に重要です。繰り返しになりますが、租税特別措置法66条の2の2の趣旨目的が何であったのかということについて、後付けでない形で、詳しく説明が行われることを期待したいと思います。

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