リースに関する会計・税務の実務ポイント解説

第8回(最終回) IFRS16号適用会社の実務

更新日 2023.07.06

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 公認会計士・税理士 宮嶋芳崇

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

公認会計士・税理士 宮嶋 芳崇

2016年にIFRS会計基準、米国会計基準で、リース取引に関する会計基準が公表され、日本でも2019年3月から、新リース会計基準の開発に着手してきました。
2023年5月2日に企業会計基準委員会から、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」が公表され、リース取引の会計処理について、国際的な会計基準との整合性を図ろうとしています。
そこで、現行の会計基準とIFRS基準について解説していきます。

当コラムのポイント

  • リース会計基準の概要
  • リース会計の税務
  • IFRS基準の概要
目次

前回の記事 : 第7回 IFRS16号と日本基準の主な相違点

1.はじめに

 2023年5月2日に企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」(以下、「新リース会計基準(案)」)が公表されました。「新リース会計基準(案)」によれば、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間を2年程度と予定されています。
 「新リース会計基準(案)」が適用されると、財務諸表への影響や業務プロセスへの影響も大きくなることが想定されることから、第8回目の今回は、「新リース会計基準(案)」の今後の適用にあたって参考となるであろう、IFRS第16号「リース」(以下、「IFRS16号」)などの適用事例から、今後想定される実務上の論点を整理したいと思います。

2.今後想定される実務上の論点

(1) 契約内容の網羅的な把握(一覧表の作成)

 「IFRS16号」の対象契約は、リース契約(オペレーティング、ファイナンスいずれも)、賃貸借契約、レンタル契約など、契約の名称に関わらず「借手が原資産を使用する権利を有し、支配する契約」が該当します。従って、本社や支店の不動産賃貸借契約から、製造機器の賃貸借契約、船舶・航空機のレンタルや、PCのレンタルなど、多岐に渡り、「新リース会計基準(案)」でも対象契約は大きく変わらないことが想定されます。
 また、「IFRS16号」によれば、個別のリースにおいて、資産が新品である時点での価値に基づいて少額であると判断できるのであれば、免除規定を適用できるとされています。しかし、最終的に重要性の観点(金額的側面)から除外される取引があるとしても、対象契約を網羅的に把握し、金額や契約期間、延長オプションの有無などを網羅的に把握する行為は、「IFRS16号」であっても「新リース会計基準(案)」であっても変わらないことが予想されます。
 従って、リース契約、賃貸借契約、レンタル契約など、資産を使用する権利の対価として支払いを行っている取引について、親会社のみならず子会社も含めたグループ全体で、全ての対象契約を把握し、契約内容一覧表を作成することが必要となります。連結範囲が多岐に渡る場合、「グループ全体の対象契約の網羅的な把握」という観点からは、子会社等で新リース会計基準に関する理解度のバラつきや、事務スキルに依存する部分が生じることも想定されるため、難易度が高くなることが考えられます。

(2) 過去実績の把握

 日本の賃貸借における商慣行の特徴として、契約期間の自動更新条項が入っており、契約書のみでは、「IFRS16号」を適用するにあたって必要な期間を把握することが困難なことがあります。その際、重要になってくるのが将来計画(事業計画)及び過去実績となります。当然、将来計画(事業計画)が存在しており、当該計画において「IFRS16号」を適用するに足るものである場合は、当該計画における期間等で「IFRS16号」を適用することが想定されます。
 一方で、「IFRS16号」を適用するに十分な要件を満たしていない将来計画の場合や、事業計画などが存在しない場合には、過去の同様の契約の履行や解約状況を参考としていくことが考えられます。なお、器具備品のレンタルや支店の賃貸借契約など重要性が高くないものは通常、事業計画など存在していないことが多いと考えられるため、過去実績等を基に金額の算定を行うことになると思われます。
 従って、(1)に記載した原契約の把握を網羅的に行うのみでなく、過去の契約や解約状況についても把握する必要があります。

(3) Excelシート対応 or システム対応

 「IFRS16号」を適用するにあたっては、第7回のコラムでも記載がある通り、使用権資産及びリース負債について、現在価値により算定を行う必要があります。なお、現在価値により資産及び負債を認識するという、「IFRS16号」の考え方に似た概念の会計基準としては、「資産除去債務に関する会計基準」が既に存在しており、上場企業においては本コラムの執筆の約10年以上前の平成22年4月1日以降の事業年度から適用されています。「資産除去債務に関する会計基準」については、資産除去債務の対象となる取引は限定的であったことから、現在価値への割引計算をExcelシートにて対応している企業も多数存在していると思われます。
 一方で、IFRS基準に基づき「IFRS16号」を適用した企業には、対象資産が多岐にわたること、金額が多額になること、見積もり変更時への対応の観点などから、Excelシートでの対応では不十分であると判断し、システムを構築して対応している企業も存在します。
 対象資産の範囲や、金額・見積もり変更時への対応の観点から、Excelシートでの対応が十分可能なのか、システム対応が必要なのかという観点も持ち合わせて検討をしていく必要があります。

(4) 連結組み替えでの対応 or 会社単位での適用

 IFRS基準により連結財務諸表を作成している企業であっても、連結財務諸表にのみIFRS基準を適用し、単体財務諸表は日本基準で作成している場合も多く存在します。一方で、「新リース会計基準(案)」においては、連結財務諸表と個別財務諸表の両方に適用することが想定されています。
 実務上の観点からこれを考えてみると、「新リース会計基準(案)」への対応を、連結上の補正仕訳等で行おうとしても、各子会社の実情を連結チームで把握することは企業規模が大きくなるほど困難であると考えられます。従って、原則として、連結子会社からの連結パッケージの提出時点で「新リース会計基準(案)」を適用することが必要であり、また、各子会社において新リース会計基準を適切に運用(上記(3)の論点や、見積りの見直しなども含めて)することは非常に難易度が高くなることが想定されます。

(5) グループ会社間での不動産賃貸借処理(連結上の相殺消去)

 少しテクニカルな論点になりますが、IFRS基準により連結財務諸表を作成している企業は、連結財務諸表上、外部とのリース取引をオンバランスすれば良いので、例えばグループ間での不動産賃貸借処理を借手・貸手ともオフバランス処理していても問題なかったのですが、(4)で記載した通り、「新リース会計基準(案)」では、個別財務諸表でも適用され、借手・貸手ともにオンバランス処理されることから、新たな連結上の相殺消去が必要になり、グループ会社間での賃貸借処理の把握と、連結消去の仕組み構築が必要になると思われます。

3.最後に

 財務的な観点からIFRS基準により「IFRS16号」が適用された例を見ていると、業種によっては今までオフバランス処理でよかった取引がオンバランス処理されることにより、総資産が適用前に比べて1.5倍以上になるなど著しい影響を及ぼしている例も存在しています。また、冒頭にも記載した通り「新リース会計基準」が公表された場合、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間が2 年程度とされており、過去情報の把握や、現状の契約状況の把握、対応システムの検討、さらには適用初年度の期首影響額の算定などを考えると、非常にタイトなスケジュールになることが想定されます。
 また、今後、法人税や消費税に関しても改正があれば、その内容によっては、所得計算、税効果計算にも影響があると思われます。
 公開草案の今後の推移についても見守る必要がありますが、IFRS基準で連結財務諸表を作成していない企業で不動産の賃貸借契約等が多い企業においては、早期にプロジェクトチームなどを立ち上げて検討を行っていく必要があると思われます。

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プロフィール

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 公認会計士・税理士 宮嶋芳崇

公認会計士・税理士 宮嶋 芳崇(みやじま よしたか)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ会計システム普及部会会員

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税理士法人ZERO

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