更新日 2023.12.25

法人税の税務調査で重加算税の対象となると言われたものへの対応

第1回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(1)

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長 英樹

株式会社TKC 顧問

税理士 朝長 英樹

税務調査で重加算税が課されるということになると、納税額が増えることはもとより、次の税務調査が厳しいものとなったり、報道等がされたりするなど、さまざまな不利益を被ることとなってしまいますので、税務調査を受けた場合には、重加算税を課されることのないようにするということが非常に重要となります。
税務調査で重加算税が課されるというケースには、誰が見ても重加算税が課されることに疑義はないというようなものもありますが、重加算税が課されることとなるのか否かということについて慎重に判断をしなければならないというものもあります。
本コラムにおいては、法人税の税務調査において調査官から「重加算税の対象となる」と言われたもののうち、重加算税が課されることとなるのか否かということについて慎重に判断をしなければならないというものを確認し、それらについて、納税者及び税理士がどのように対応するべきであるのかということを説明するとともに、重加算税が課される場合に非常に高い割合で作成される質問応答記録書に対して納税者及び税理士がどのように対応するべきであるのかということを説明することとしています。
なお、本コラムは、TKC税務セミナー「朝長英樹氏が語る重加算税の対象とは」(オンデマンド配信)における説明に加筆・修正等をしたものです。  

1.重加算税の賦課の根拠条文である国税通則法68条1項

 重加算税の賦課の根拠条文は、次の国税通則法68条1項となっています。

(重加算税)

第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

 この国税通則法68条1項に関しては、次のⅰからⅳまでに掲げる点に留意する必要があります。

ⅰ 国税通則法68条1項においては、「納税者」が隠蔽又は仮装をして納税申告書を提出していた場合に、重加算税を課すると定めている

 国税通則法68条1項においては、「納税者」が隠蔽又は仮装をしていた場合に重加算税を課すとしています。

 この「納税者」には、納税者と「同視」できる者を含むと解釈して従業員が行った隠蔽又は仮装を納税者が行ったものとして重加算税を課することを容認する裁判所の判決や専門家の見解があります。

 しかし、国税通則法68条1項を正しく解釈すれば、同項の「納税者」には、納税者と「同視」できる者を含む旨の定め(注1)は設けられていませんので、同項の「納税者」をそのように解釈することはできないと考えられます。

(注1) 法令を検索してみると、現在、「同視」という用語は、35の法令で用いられています。そのうち、最も古いものは、恩給法(大正12年法律第48号)48条3号の規定であり、その規定の中で「公務員タル特別ノ事情ニ関連シテ生シタル不慮ノ災厄ニ因リ傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ審議会等ニ於テ公務ニ起因シタルト同視スヘキモノト議決セラレタルトキ」という用い方がされており、最も新しいものは、国外犯罪被害者弔慰金等の支給に関する法律施行規則(平成28年国家公安委員会規則第23号)1条の規定であり、その規定の中で「当該親族関係が破綻していたと認められる事情がある場合又はこれと同視することが相当と認められる事情がある場合」という用い方がされています。

 また、仮に、国税通則法68条1項の「納税者が・・・」という部分の「納税者」に納税者と「同視」できる者を含むと解釈するのであれば、その部分の後の「当該納税者に対し、政令で定めるところにより、・・・重加算税を課する」という部分の「当該納税者」についても納税者と「同視」できる者を含むと解釈しなければならないわけですが、上記の裁判所の判決や専門家の見解では、この「当該納税者」に納税者と「同視」できる者を含むこととはされていません。

 つまり、上記の裁判所の判決や専門家の見解は、条文の文言に反し、かつ、辻褄も合わない誤ったものであるということです(注2)。

(注2)税法の企画立案及び条文案の作成に携わってきた筆者の経験に照らすと、重加算税という行政罰を課して納税者に不利益な処分をする条文について、「納税者」としか規定していないところについて「納税者」と同視できる者を含むと拡大解釈してその適用範囲を広げるなどということは、わざわざ条文を取り上げてそれが誤っているということを指摘するまでもなく、そもそもそれ自体が税法解釈の常識に反することであると感ずるところです。

 なお、役員又は従業員が隠蔽又は仮装を行った場合に重加算税の対象となるのか否かということは、現実には、役員又は従業員が背任・横領等を行っていたというケースで問題となることが多いわけですが、そのようなケースにおいては、本来は、重加算税の賦課の要否を考える前に、法人の所得の金額が増加することとなるのか否かということについて、法令の規定と通達の定めを正しく踏まえて十分な検討を行うべきところ、近年は、裁判事例などを見ても、法令の規定や通達の定めを正しく理解するという入り口のところから既に問題があると考えられるものが少なくないということを、一言、付言しておくこととします。

ⅱ「納税申告書を提出していた」後の隠蔽又は仮装は、重加算税の賦課の要件とはされていない

 国税通則法68条1項においては、「その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に重加算税を課すと定めており、「納税申告書を提出していた」後の隠蔽又は仮装は、重加算税の賦課の要件とはされていません。(「実地の調査において」(通令27③)、隠蔽し、又は仮装したときを含むなどという旨の定めは、設けられていない、ということです。)

 税務調査は、申告後に行われますので、「納税申告書を提出していた」後の隠蔽又は仮装が重加算税の賦課の要件とはされていないということを正しく理解しておくことも、非常に重要となります。

ⅲ この「隠蔽」又は「仮装」は、法人税法159条(罰則)において脱税の要件とされている「偽りその他不正の行為」よりも範囲が狭いと解釈されている

 国税通則法68条1項において用いられている「隠蔽」又は「仮装」は、次の法人税法159条(罰則)において脱税の要件とされている「偽りその他不正の行為」よりも範囲が狭いと解釈されている点にも、留意しておく必要があります。

第百五十九条 偽りその他不正の行為により、第七十四条第一項第二号(・・・)に規定する法人税の額(・・・)若しくは第百四十四条の六第二項第二号に規定する法人税の額(・・・)につき法人税を免れ、又は第八十条第十項(・・・)の規定による法人税の還付を受けた場合には、法人の代表者(・・・)、代理人、使用人その他の従業者(・・・)でその違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 「隠蔽」又は「仮装」と「偽りその他不正の行為」がこのような関係となっているため、中小規模の会社に税務調査で多額の重加算税が課されることとなるという場合には、査察調査に切り替えられて脱税とされてしまうことがあります。

 重加算税が課されて済む場合と脱税とまでされる場合とでは、結果に非常に大きな違いが生じますので、上記のような事情にあるということに、十分、留意しておく必要があります。

 ただし、本来のあるべき姿という観点からすると、脱税とされる要件が重加算税の賦課の要件よりも広く定められているということには、大きな問題があり、また、重加算税の賦課の要件は後に述べる事務運営指針においてかなり具体的に示されている一方、脱税とされる要件に関しては「偽りその他不正の行為」という僅か10文字の定めしかないという状態となっていることにも、大きな問題があると考えられます。

 つまり、本来は、刑事罰の対象とするものについては、行政罰の対象とするものより以上に、行政機関の裁量の幅が大きくならないように要件等を詳しく定めるべきところ、我が国の税制においては、その真逆になっている、ということです。

ⅳ この「隠蔽」又は「仮装」は、納税者が過少申告を行う認識を有しているということまで必要とするものではないと解釈されている

 国税通則法68条1項において用いられている「隠蔽」又は「仮装」は、納税者が過少申告を行う認識を有しているということまで必要とするものではないと解釈されている点にも、留意しておく必要があります。

 このような解釈によれば、納税者が過少申告を行うこと以外の理由によって「隠蔽」又は「仮装」を行い、結果的に過少申告となっているという場合であっても、重加算税が課されるということになります。

 もっとも、筆者は、国税通則法68条1項の「隠蔽」又は「仮装」をこのように解釈することについては、拡張解釈に過ぎるものであって、適当ではないと考えています。

以上

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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日本税制研究所 代表理事

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