更新日 2023.12.25

法人税の税務調査で重加算税の対象となると言われたものへの対応

第3回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(3)

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長 英樹

株式会社TKC 顧問

税理士 朝長 英樹

税務調査で重加算税が課されるということになると、納税額が増えることはもとより、次の税務調査が厳しいものとなったり、報道等がされたりするなど、さまざまな不利益を被ることとなってしまいますので、税務調査を受けた場合には、重加算税を課されることのないようにするということが非常に重要となります。
税務調査で重加算税が課されるというケースには、誰が見ても重加算税が課されることに疑義はないというようなものもありますが、重加算税が課されることとなるのか否かということについて慎重に判断をしなければならないというものもあります。
本コラムにおいては、法人税の税務調査において調査官から「重加算税の対象となる」と言われたもののうち、重加算税が課されることとなるのか否かということについて慎重に判断をしなければならないというものを確認し、それらについて、納税者及び税理士がどのように対応するべきであるのかということを説明するとともに、重加算税が課される場合に非常に高い割合で作成される質問応答記録書に対して納税者及び税理士がどのように対応するべきであるのかということを説明することとしています。
なお、本コラムは、TKC税務セミナー「朝長英樹氏が語る重加算税の対象とは」(オンデマンド配信)における説明に加筆・修正等をしたものです。  

前回の記事 : 第2回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(2)

2.国税庁が公表している事務運営指針による重加算税の取扱い

(3) 事務運営指針の内容

 事務運営指針においては、重加算税が課されることとなるのか否かということについて、次のⅰとⅱに記載した二つのことが述べられています。

 実務においては、この二つのうち、ⅱに記載したことが非常に重要となりますので、(3)においては、ⅱに記載したことについて、詳しく確認を行うこととします。

ⅰ 売上の除外、架空経費、棚卸資産の除外、科目仮装交際費等は、事務運営指針に拠っても、重加算税が課されることとなる(事務運営指針第1の1(隠蔽又は仮装に該当する場合))。

ⅱ 売上の繰延べ(当期の売上を翌期に計上しているもの)、経費の繰上げ計上(翌期の経費を当期に計上しているもの)、棚卸資産の計上もれ(棚卸資産を過小評価しているもの)、他科目交際費等については、「当該行為が相手方との通謀又は証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんによるものでないとき」は、「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等」に該当せず、重加算税が課されない(事務運営指針第1の3(帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない場合))。

(ⅰ)「相手方との通謀」について
 「通謀」とは、「他人と通じて謀議することをいう」(『法令用語辞典』学陽書房)とされています。
 この「謀議」とは、一般用語であって、国語辞典によると、「計画し相談すること」「はかりごとを相談すること」などとされています。
 つまり、「相手方と計画し相談したり、はかりごとを相談したりした」というものでなければ、「相手方との通謀」を行ったということにはならないわけです。
 このため、例えば、相手方に請求書の発行を依頼して請求書を発行してもらったというケースについて考えてみると、相手方に請求書の発行を依頼して請求書を受領したというだけの場合は、相手方と「謀議」を行ったというものとはなりません。
 そのような場合は、「相手方への依頼」を行ったものに過ぎず、「相手方との通謀」を行ったものとはならないわけです。
 相手方に請求書の発行を依頼し、相手方が請求書を発行したということであれば、双方において請求書を発行することに関する意思の合致があったということになりますが、このような意思の合致は、「合意」であって、「謀議」ではありません。

(ⅱ)「証ひょう書類等の破棄」について
 「破棄」とは、「破り棄てる、又は破りこぼつこと」(『法令用語辞典』学陽書房)とされています。
 このため、「証ひょう書類等の破棄」とは、「証ひょう書類等を破り棄て又は破りこぼって発見を妨げること」ということになります。

(ⅲ)「証ひょう書類等の隠匿」について
 「隠匿」とは、「人又は物を隠して、他人の発見を妨げる行為をいう」(『法令用語辞典』学陽書房)とされています。
 このため、「証ひょう書類等の隠匿」とは、「証ひょう書類等を隠して発見を妨げること」ということになります。
 「隠匿」は、国税通則法68条1項で用いられている「隠蔽」に似た用語ですが、「隠蔽」が「都合の悪いことを隠す」という意味で用いられるものであるのに対し、「隠匿」は「隠してはいけない物を隠す」という意味で用いられるものであるため、「隠匿」は、「隠蔽」よりも範囲が狭くなります。
 国税通則法68条1項で「隠蔽」という用語が用いられている中にあって、事務運営指針においては、「隠蔽」という用語ではなく、「隠匿」という用語が用いられているわけですから、「隠匿」という用語は、「隠蔽」という用語とは明確に区別して理解する必要があります。
 もう少し具体的に述べると、法人税法126条1項と法人税法施行規則59条1項には青色申告法人について「帳簿」と「書類」を保存しなければならない旨の定めが置かれており、また、同法150条の2第1項と同規則67条1項及び2項には普通法人等について「帳簿」と「書類」を保存しなければならない旨の定めが置かれており、「相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるもの」(法規59①三、67①一)の写しは保存義務の対象となりますので、「相手方から受け取った注文書」等と「これらに準ずる書類」及び「自己の作成したこれらの書類でその写しのあるもの」の写しを隠すということになると、「隠匿」をしたということになりますが、例えば、代表者の手帳などは、これらの「書類」には含まれませんので、代表者が手帳を隠したとしても、「隠匿」をしたということにはなりません。もっとも、国税通則法74条の2第1項(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)により、調査官は、税務調査において、「帳簿書類その他の物件」の「提示」又は「提出」を求めることができると定められていますので、税務調査において代表者が調査官から手帳の提示を求められた場合には、その手帳は「帳簿書類その他の物件」に該当することとなって「隠してはならない物」ということになり、代表者がその手帳を隠して提示しなかったというときは、「その他の物件」の「隠匿」をしたということになります。
 また、事務運営指針第1の3においては、「証ひょう書類等」について、「隠匿」(隠してはいけない物を隠して発見を妨げること)をしたものが重加算税の対象となるとされていますので、税務調査の場面では、「証ひょう書類等」に該当するのか否か(「証ひょう書類等」の範囲が「帳簿書類」の範囲よりも狭いことについては、次の(ⅳ)を参照して下さい。)、「証ひょう書類等」に該当すると判断されたものが「隠してはいけない物」に該当するのか否か(「証ひょう書類等」に該当すると判断されたもののうち、調査官から提出を求められたものは「隠してはいけない物」に該当するということになりますが、調査官から提出を求められなかったものは「隠してはいけない物」に該当するということにはならないと考えられます。)、また、第1回 1.ⅱで確認したとおり、申告書を提出するまでに、「証ひょう書類等」の「隠匿」をしていたのか否か(申告書を提出した後の税務調査の場で「証ひょう書類等」の「隠匿」をしたことが重加算税の賦課の事由となるということはありません。)ということが問題となります。

(ⅳ)「証ひょう書類等の改ざん(偽造及び変造を含む。)」について
 事務運営指針第1の1(2)①において、「帳簿、原始記録、証ひょう書類、貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳明細書、棚卸表その他決算に関係のある書類」を「(以下「帳簿書類」という。)」と定義しているため、同3の「証ひょう書類等」は、「帳簿書類」よりも範囲が狭いということになります。
 「改ざん」については、事務運営指針第1の1(2)②において、「(偽造及び変造を含む。以下同じ。)」とされているため、「証ひょう書類等の改ざん」は、「証ひょう書類等の偽造」及び「証ひょう書類等の変造」を含むこととなります。
 「改ざん」とは、一般用語であり、国語辞典によれば、不当に改めること等をいうものとされています。
 「偽造」には、広狭2義があり、広義には「例えば、文書についていえば、刑法2編17章文書偽造の罪という場合の「偽造」で、狭義の偽造のほかに、虚偽文書の作成、文書の変造及びこれらの文書の行使を含めた概念」(『法令用語辞典』学陽書房)とされており、狭義には「権限なしに、通貨、他人名義の文書、有価証券、印章等を作成すること」(同前)とされています。
 事務運営指針第1の1(2)②の「(偽造及び変造を含む。)」の中の「偽造」は、「及び」という用語を用いて「変造」と並べて用いられているため、「変造」を含む広義の意味で用いられているということはあり得ず、狭義の意味で用いられているものということになります。
 そうすると、作成の「権限」のある者が作成したものは、事務運営指針第1の1(2)②の「(偽造及び変造を含む。)」の中の「偽造」となることはないということになります。
 また、「変造」とは、「通貨、文書、有価証券、印紙等の内容に変更を加えることをいう」(『法令用語辞典』学陽書房)とされています。
 税務調査の場面を考えると、「通貨」、「有価証券」及び「印紙」について、「変更を加える」ということはあり得ませんので、「文書」「等」について、その「内容に変更を加える」ということになっているのか否かということが問題となることになります。
 このようなことからすると、「偽造」と「変造」は、「改ざん」の意味内容とされている「不当に改めること等」に含まれると捉えてよいと考えられます。
 このため、「証ひょう書類等の改ざん(偽造及び変造を含む。)」とは、簡略化して言うと、「証ひょう書類等を不当に改めること等」ということになると考えられます。
 つまり、「証ひょう書類等」について、「不当に改めること等」を行っていなければ、「証ひょう書類等の改ざん」には該当しないということです。
 例えば、役務提供が完了していない段階で相手方に請求書の発行を依頼して請求書を取り寄せたとしても、その請求書を「不当に改めること等」を行っていなければ、「証ひょう書類等の改ざん(偽造及び変造を含む。)」を行っていることにはならないわけです。

(ⅴ)「売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合」等について
 収益の額を益金の額に算入する時期又は原価の額・費用の額・損失の額を損金の額に算入する時期に誤りがないものについては、「売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合」(事務運営指針第1の3(1))、「経費(原価に算入される費用を含む。)の繰上計上をしている場合」(同⑵)、「棚卸資産の評価換えにより過少評価をしている場合」(同(3))、「確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等又は寄附金のように損金算入について制限のある費用を単に他の費用科目に計上している場合」(同(4))に該当せず、そもそも課税所得が発生するということもないため、事務運営指針第1の3によって重加算税の対象となるということもありません。

以上

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