更新日 2022.10.06

共通ポイントの消費税における「値引き」処理

はじめに

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

株式会社TKC 顧問

税理士 朝長 英樹

2021年10月に、筆者は、当コラムの「ポイント制度における消費税の取扱いの検証」において、共通ポイントの使用時の消費税の処理は「値引き」が行われたという処理に変更するのが正しいという見解を述べましたが、2022年9月25日に、朝日新聞に、国税当局が共通ポイントの使用時の消費税の処理について「値引き」とすることを認めたという記事が掲載されました。
この記事には、ポイントの消費税の処理と2023年10月のインボイス制度への移行との関係についてまでは記載されていませんが、共通ポイントの加盟店においては、顧客がポイントを使用する時の消費税の処理を現在のままとして「値引き」とはせずにインボイス制度に移行するということになると、消費税額が増加することにならざるを得ません。
このため、共通ポイントの加盟店が消費税額を増加させないようにするためには、現在のポイントの消費税の処理について、インボイス制度に移行する時まで(最も遅い場合には、インボイス制度に移行する時)に、「値引き」に変更する、ということが必要となります。
しかし、現状は、インボイス制度への移行のためのシステム変更等については、ある程度まで進んでいると思われるものの、共通ポイントの加盟店におけるポイントの消費税の処理の変更のためのシステム変更等については、そのようなことが必要となるという認識さえ殆どないという実情にあると考えられます。
このような現状を早急に改めなければ、数十万社も存在する共通ポイントの加盟店の多くがインボイス制度への移行と同時に消費税を多く納めるようにならざるを得ないと考えられます。
本コラムでは、このような現状を早急に改善するべく、共通ポイントの従前の処理の「値引き」処理への変更の仕方等について、筆者の意見を述べます。

目次

はじめに

 ポイントの中でも、「自社ポイント」と言われるもの(自社でポイントを付与し、自社のみでそのポイントを使用する取引が行われるもの)を顧客が使用した時の発行者における消費税の処理は、従来から、「値引き」とすることとされてきました。
 一方、「共通ポイント」と言われるもの(複数の加盟店でポイントを付与する取引が行われ、複数の加盟店でそのポイントを使用する取引が行われるもの)を顧客が使用した時の加盟店における消費税の処理に関しては、これまで、国税当局は、「値引き」とはならないと説明してきており、実務も、そのようになっています。
 しかし、当コラムに寄稿させて頂いた「ポイント制度における消費税の取扱いの検証」(2021年10月14日)において説明をさせて頂いたように、共通ポイントを使用して取引を行った場合のその取引は、自社ポイントを使用して取引を行った場合のその取引と何ら異なるものではありません。
 このため、共通ポイントの使用時の消費税の処理は、自社ポイントの使用時の消費税の処理と同様に、ポイントの使用額に相当する金額の「値引き」が行われたとするのが正しい(注1)ということになります。

(注1) 共通ポイントは現金と同じように支払手段として用いられているため共通ポイントの使用は「値引き」とはならないという主張も見受けられます。しかし、共通ポイントが支払いに用いられるのは、共通ポイントが「値引き」に用いることができることから価値があるためであって、共通ポイントが「値引き」に用いることができないのであれば価値がなくなり、共通ポイントを現金と同じように支払いに用いるということもできなくなります。
 このように、共通ポイントが現金と同じように支払いに用いられるのは何故かということを考えてみただけでも、上記の主張は本末転倒の主張であって誤っているということが明らかです。

 2022年9月25日の朝日新聞(朝刊)の税務調査に関する記事(「ポイント「課税せず」国税納得させた理屈」)の中でも、国税当局が共通ポイントの使用時の加盟店の消費税の処理について、ポイントの使用額に相当する額の「値引き」が行われたとすることを認めたとされています。
 ポイントの使用額に相当する金額について、「値引き」が行われたとすることができるということになれば、消費税額が変わることになりますので、実務も変わらざるを得なくなるはずです。
 この記事においては、「買い物をする時に提携店で共通に「値引き」として使えるポイントを扱う企業は、三越伊勢丹と同様の理屈で消費税の納税額が増えずに済むようになるとみられる。」としています。
 仮に、共通ポイントの加盟店における消費税の処理に関して、2020年1月に国税庁が公表した「〇 共通ポイント制度を利用する事業者(加盟店A)及びポイント会員の一般的な処理例」という仕訳を示した表(以下「国税庁仕訳表」といいます。)のとおりに、ポイントの付与時に加盟店がポイントの発行会社に支払うこととなっている付与ポイント相当額の金銭の支払い(以下「ポイント費用」といいます。)について、従来の課税仕入れとする処理を変更して課税仕入れとはしないこととし、ポイントの使用については、従来のまま、加盟店において「値引き」とはしないこととするということになったとすれば、共通ポイントの加盟店となっている数十万社において、毎年、総額で約2千億円もの増税が行われるという事態とならざるを得ないと考えられるわけですが、ポイントの使用の処理を「値引き」とすると、ポイントの付与の処理を課税仕入れとしないことで生ずる消費税額の増加額とポイントの使用の処理を「値引き」とすることで生ずる消費税額の減少額とが相殺されることとなる(注2)ため、そのような事態となることを回避することができます。

(注2) ポイントを付与する取引がポイントを使用させる取引よりも多い加盟店においては、相殺されずに残るポイントを付与する取引におけるポイント費用に係る消費税相当分の納付するべき消費税額が増加し、反対に、ポイントを使用させる取引がポイントを付与する取引よりも多い加盟店においては、相殺されずに残るポイントを使用させる取引における「値引き」に係る消費税相当分の納付するべき消費税額が減少することとなります。

 ポイント制度の歴史は非常に古く、現在、共通ポイントが生まれてから既に数十年が経っているわけですが、ここに至ってようやく本来の正しい処理を行い得ることとなり、それによって上記のような事態となることを回避することができることともなる、ということになります。
 加盟店は、現在、共通ポイントの発行会社がポイント費用を消費税の課税取引として請求しているか不課税取引として請求しているかにかかわらず、ポイント費用を課税仕入れとして処理しているものと思われますが、現在のまま、インボイス制度に移行するということになれば、移行後は、共通ポイントの発行会社から不課税取引として請求書が送られてくるポイント費用(注3)を課税仕入れとすることはできなくなってしまいます。

(注3) 2023年10月にインボイス制度に移行する時には、共通ポイントの発行会社が加盟店に請求するポイント費用は、全て不課税取引として請求することとなっているものと思われます。

 このため、加盟店における共通ポイントの処理の変更は、2023年10月のインボイス制度への移行を念頭に置いた上で行う必要があるわけですが、インボイス制度への移行まで1年ほどしかありませんので、共通ポイントの加盟店となっている事業者とその顧問税理士は、早急に検討を始める必要があると考えられます。
 加盟店において、共通ポイントの処理を変更しないまま、インボイス制度に移行したということになると、ポイントの付与時のポイント費用を課税仕入れとする処理が否認されるとともに、ポイントの使用時にポイントの使用額相当額を「値引き」とする処理は認められないということになるおそれがあります。そうすると、加盟店は、本来は負担する必要のない消費税を新たに負担しなければならなくなり、加盟店の顧問税理士は、その責任を問われることになるといった事態にならないとも限りません。ポイントの消費税の処理は、分かり難いことは間違いありませんが、しかし、加盟店となっている事業者やその顧問税理士は、その処理を正しく行うということを避けて通るわけにはいかないわけです。
 以下、本コラムにおいては、最初に、上記の記事について補足を行った上で、今後、どのようにして共通ポイントの消費税の従前の処理を本来の正しい処理に変更すればよいのかということ等について、筆者の意見を述べることとします。

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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日本税制研究所 代表理事

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