更新日 2023.09.19

共通ポイントの消費税の処理

Ⅰ 会員(事業者)、加盟店及び運営会社における事実に即した正しい税務処理等の確認

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 Ⅰにおいては、ⅡからⅣまでにおいて、会員の中で消費税の納税義務者である「事業者」となっている者、加盟店及び運営会社における共通ポイントの取扱いに関する筆者の見解を述べる前に、会員(事業者)、加盟店及び運営会社における事実に即した正しい税務処理がどのようなものであるのかということ等について、改めて確認を行っておくこととします。
 なお、以下、「取引」という場合には、インターネットを介して行われる取引も含まれることに留意して下さい。

1.会員(事業者)

 会員は、加盟店との間において、共通ポイントを付与される取引を行った場合には、自社ポイント(ポイントを発行している会社のみで使うことができるポイントをいい、会員によるポイントの使用は「値引き」とされます。以下、同じです。)を発行している会社との間において自社ポイントが付与される取引を行った場合と同様に、その後、そのポイントを使用して加盟店との間において取引を行った時にポイントの使用額に相当する金額の「値引き」をしてもらえる権利を得た、という状態となります。
 この状態は、ポイントが共通ポイントであろうが自社ポイントであろうが、何ら変わることはなく(注1)、会員は、その後、商品の購入等の時に、クレジットカードを使う場合と同じような要領でポイントカードを使えば、商品の定価からポイントの使用額だけ支払額を少なくすることができることになります。

(注1)会員が加盟店から商品の購入等を行い、会員が共通ポイントのカードを提示した場合と自社ポイントのカードを提示した場合とで、その会員と加盟店との間の商品の取引に、何か違いがあるのかというと、全く何の違いもないことが明らかです。
 共通ポイントの仕組み上、会員が商品の購入等を行って共通ポイントを使用した場合のそのポイントの使用額に相当する金額については、会員にポイントを付与する取引を行った加盟店が負担して支払う義務があるものとされており、会員に支払義務が発生することはありませんので、会員がポイントの使用額に相当する金額の「値引き」を受けていることは自明であると言っても、決して過言ではありません。

 ポイントを付与された会員は、将来、商品の購入等の時に「値引き」をしてもらえるわけですから、この権利には、経済的な価値があり、それ故に、ポイントは、「値引き」に用いる前までの間においては、現金と交換したり商品券と交換したりするなど、多様な用い方をすることができることとなりますが、ポイントの大半は、そのような派生的な取引をすることなく、将来の商品の購入等の時に、支払額を少なくするために用いられることとなっています。
 そして、ポイントを付与された後、その付与されたポイントを使用して支払額を少なくして商品の購入等を行い、それによって「値引き」をしてもらうことができる権利を行使したということになります。
 このため、会員は、ポイントを使用して購入等をした商品については、その商品の定価からポイントの使用額に相当する金額を控除して実際に支払う金額が商品の購入等の対価の額ということになり(注2)、会員が消費税の納税義務者(事業者)である場合には、その実際に支払う金額を課税仕入れに係る支払対価の額とし、その支払対価の額に対する消費税額を仮払消費税額とするべきことになります。

(注2)「ポイントの使用額は商品の代金充当の額であって、ポイントの使用は「値引き」とはならない」という主張を聞くことがありますが、このような主張は、明らかに誤っています。
 「充当」とは、次のようなものとされています。
 「「充当」は、法令用語としては、債務者の有するある金銭、債務、物等をその債務者の負っているいくつかの債務あるいは給付のうちのいずれの弁済に充てるかという場合にその充て方を示すために用いられる。」(『法令用語辞典』学陽書房)
 この説明から分かるとおり、当事者間に債権債務が存在しなければ、「充当」が行われるということはありません。
 会員が加盟店から商品を購入してポイントを使用した場合、そのポイントが自社ポイントであったときに、加盟店が会員に対してポイントの使用額に相当する債権を取得するということがあるのかということを考えてみると、加盟店が店頭で商品を現金値引きして販売した場合と同様であって、加盟店は会員に対してポイントの使用額に相当する金額の債権を取得することはないという結論となるはずです。
 そして、会員が加盟店から商品を購入して使用したポイントが自社ポイントであろうが共通ポイントであろうが、会員と加盟店との間の商品の取引自体には、何の違いもないということは、既に確認したとおりです。
 そうすると、会員が使用したポイントが共通ポイントであったときにだけ、加盟店が会員に対してポイントの使用額に相当する債権を取得するということがあるはずがなく、「ポイントの使用額は商品の代金充当の額であって、ポイントの使用は「値引き」とはならない」という主張は、明らかに誤っているということになります。
 また、共通ポイントには、経済的な側面から見ると、紙幣や商品券などと似たところがあることは事実ですが、消費税法には、「支払手段」(消法別表一2号、消令9)と「物品切手等」(消法別表一4号ハ、消令11)という概念があって、紙幣などは「支払手段」とされており、商品券などは「物品切手等」とされているものの、共通ポイントは、「支払手段」と「物品切手等」のいずれともされていませんし、そもそも、消費税法には、「代金充当」などという曖昧な概念は、存在しません(「充当」という用語についても、現在、消費税法においては、25か所(附則部分を除く。)で用いられていますが、その全てが税金や還付金に関して用いられることとなっており、消費税法には、「代金」等について「充当」という用語が用いられているところは、1か所もありません。)。
 また、会員が自社ポイントを用いて商品の購入等を行った場合には「代金充当」を行っていることにはならず、同じ会員が共通ポイントを用いて商品の購入等を行った場合には「代金充当」を行っていることになるというのは、どのような理由によるものか、と質問されたとしても、その質問に対する理論的で説得力のある回答は、行い得ないはずです。
 要するに、「ポイントの使用額は商品の代金充当の額であって、ポイントの使用は「値引き」とはならない」という主張は、ポイントが自社ポイントであろうが共通ポイントであろうが、消費税法の明確な解釈誤りであって、消費税法に存在しない「代金充当」という概念を創り出し、ポイントを「支払手段」や「物品切手等」と同様に捉えて、ポイントの使用は「値引き」とはならないと主張するなどということは、租税法律主義の下では、決して許されることではない、ということです。

 会員は、加盟店から商品の購入等を行い、ポイントを使用した場合には、その使用したポイントが共通ポイントであろうが自社ポイントであろうが、ポイントを使用しなかった場合と比べて、そのポイントの使用額だけ支払額が少なくなっているわけですから、ポイントを使用しなかった場合と同じ金額の消費税額を負担したということになることは、あり得ません。
 仮に、会員が加盟店から商品の購入等を行い、ポイントを使用した場合に、会員がポイントを使用しなかった場合と同じ消費税額を負担したという事実認定をするということになれば、その事実認定は、明らかに誤っているということです(注3)。

(注3)会員が加盟店との間において商品の購入等を行ってポイントを付与された場合に加盟店に支払う金額は、その商品の定価に相当する金額となり、その後、会員が加盟店との間において商品の購入等を行ってポイントを使用した場合に加盟店に支払う金額は、その商品の定価からポイントの使用額を控除した金額となりますので、会員は、ポイント制度を利用してこれらの商品の購入等を行った場合には、ポイント制度を利用せずにこれらの商品の購入等を行った場合と比べて、ポイントの使用額に相当する金額だけ支払う金額が少なくなります。
 このため、会員がポイント制度を利用してこれらの商品の購入等を行った場合には、会員がポイント制度を利用せずにこれらの商品の購入等を行った場合と比べて、負担する消費税額が少なくなるのが消費税の正しいあり方ということになります。
 換言すれば、消費者である会員がポイント制度を利用した場合には、そのポイントがどのようなポイントであったとしても、ポイント制度を利用しなかった場合と比べて、常に、ポイントの使用額に相当する金額だけ消費者である会員の支払額が少なくなるため、ポイント制度を利用しなかった場合と同じ金額の消費税額を国に納付しなければならないという主張が正しいということは、絶対にあり得ない、ということです。
 国税庁は、2020年1月に公表した「○ 共通ポイント制度を利用する事業者(加盟店A)及びポイント会員の一般的な処理例」という仕訳を示した表(以下、「国税庁仕訳表」といいます。)において、会員のポイントの使用額に相当する金額を「値引き」とせず、その結果、会員がポイント制度を利用して商品の購入等を行っても消費税額はポイント制度を利用しなかった場合と同じ金額となるとした仕訳を現在に至っても未だに公表し続けていますが、あり得ない仕訳を公表し続けてそれで良いということにはなりませんので、国税庁は、その仕訳が正しいと主張するのであれば、どの共通ポイントがどのような理由でそのような仕訳となるのかということを具体的に説明する必要があります。
 現在、インボイス制度の開始を間近に控えて、60万社から70万社とも言われている共通ポイントの加盟店の殆どが未だにポイントの消費税の取扱いを正しいものに改めるためのシステム変更に着手することさえできないという状態にあるわけですが、その主たる原因は、国税庁が国税庁仕訳表の仕訳の詳しい説明をしないことにあると言わざるを得ません。つまり、共通ポイントの消費税の処理を全て国税庁仕訳表にある処理としなければならないということになると、毎年、約2,000億円という、インボイス制度による増税額とされている2,480億円にも匹敵する巨額な増税となる可能性があるにもかかわらず、共通ポイントの消費税の処理については、国税庁がインボイス制度に関して行っている各種の説明書や数多くのQ&Aの公表などのような対応を行っていないため、殆どの加盟店がシステム変更に着手することさえできない、ということです(もっとも、筆者は、共通ポイントの消費税の処理を正しいものに変更すれば、全体として増税となるどころかむしろ減税となり、国税庁が国税庁仕訳表におけるポイントの使用の仕訳を「値引き」に修正すれば、それで最低限の対応となり得ると考えています。)。
 いずれにしても、このまま放置し続けると、何れかの時点で大きな混乱が生ずることとなる可能性がありますので、国税庁には、納税者・税理士の国税当局に対する信頼を揺るがすこととなったり、国税局・税務署に無用な負担を強いることとなったりしないように、自ら早急に然るべき対応をすることが望まれます。

 ポイント制度の会員は、その殆どが消費税の納税義務者(事業者)とはなっていない消費者であって、消費税の納税義務者(事業者)となっている者であっても、消費税の仕入税額控除の対象となる商品の購入等を行うということは、それほど多くはないものと思われますので、ポイントの処理の変更が納税額に影響を与えるというケースは少ないものと考えられますが、消費税の納税義務者(事業者)となっている者においては、加盟店から商品の購入等を行って受け取ったレシートに商品の定価に対する消費税額が記載されていた(注4)としても、ポイントを使用して商品の購入等を行った場合には、そのポイントの使用額だけ支払額が少なくなりますから、そのポイントの使用額を「値引き」として控除して実際に支払った金額に対する消費税額のみを仮払消費税額とするのが正しい処理ということになります。

(注4)国税庁が公表している「No.6480 事業者が商品購入時にポイントを使用した場合の消費税の仕入税額控除の考え方」には、「<レシート表記の例>」として、「①のケース:値引き」と「②のケース:値引きでない」という例が示されていますが、この「②のケース:値引きでない」という例のようになっているものが上記本文の「レシートに商品の定価に対する消費税額が記載されていた」というケースです。
 後にⅡとⅢにおいて詳述しますが、筆者は、この「②のケース:値引きでない」に示されている会員(事業者)の処理は、消費税法の定めに照らすと、正しくないと言わざるを得ないと考えています。

2.加盟店

 加盟店は、会員に商品の販売等を行い、会員から預かった消費税額を納付するということになります。
 加盟店は、会員がポイントを使用して商品の購入等を行った場合には、会員からその商品の販売等の対価の額として定価からポイントの使用額を控除した金額しか受け取ることがないわけですから、消費税法基本通達10-1-1(譲渡等の対価の額)において「「課税資産の譲渡等の対価の額」とは…当事者間で授受することとした対価の額」とされていることからも分かるとおり、取引の当事者である会員から受け取る金額の税抜金額を「課税資産の譲渡等の対価の額」として、仮受消費税額を計上するべきこととなります。
 当然のことながら、この仮受消費税額は、商品の購入等を行った会員が支払ったとされた消費税額と同額となります。
 加盟店は、商品の購入等を行った会員が使用したポイント相当額の金銭を運営会社を介して受け取ることとなりますが、その金銭は、会員が負担したものでもなければ会員から受け取ったものでもありませんので、商品の販売等の対価の額でないことが明確です(注5)。

(注5)国税庁は、2020年1月に、国税庁仕訳表を公表し、そこでポイントの使用が「値引き」ではないという仕訳を示し、現在に至っても、その仕訳を訂正していませんが、筆者は、「ポイント制度における消費税の取扱いの検証」(2021年10月)という記事と「共通ポイントの消費税における「値引き」処理」(2022年10月)という記事において詳述したとおり、この仕訳は誤っていると考えています。
 万が一、国税庁が共通ポイントの使用は「値引き」ではないと主張し続けるということであるとすれば、国税庁は、ポイントの使用が「値引き」とならない共通ポイントがどのようなポイントであるのかということを具体的に示した上で、そのポイントの使用が「値引き」とならない理由が何かということについて、早急に詳細な説明をする必要があると考えます。
 確かに、国税庁仕訳表に関しては、「「例」を示したものでしかない」という説明をすることは可能ですが、実際にポイントの使用額が「値引き」とならないものがあるということでなければ、「例」としてポイントの使用額が「値引き」とはならない仕訳を示すということは、出来ないはずです。

 つまり、加盟店は、本来は、会員に商品の販売等を行ってその会員にポイントが付与された場合に、運営会社に支払うポイント費用(会員が加盟店から商品の購入等を行って会員にポイントが付与された場合に、加盟店が運営会社に支払うこととなる付与ポイント相当額の金銭の支払いに係る費用で、販売促進費等となるものをいいます。以下、同じです。)について、不課税仕入れとするとともに、会員に商品の販売等を行って会員がポイントを使用して対価の額を少なく支払った場合には、商品の販売等の対価の額について、ポイントの使用額に相当する「値引き」を行ったものとして、その商品の定価からポイントの使用額を控除した金額に対する仮受消費税額を計上することとなるということです。
 加盟店は、会員がポイントを使用して商品の購入等を行った場合には、運営会社を介してポイントの使用額に相当する金額の金銭を受け取ることとなりますが、この金銭は、既に、2021年10月に当コラムに公表している「ポイント制度における消費税の取扱いの検証」の「Ⅳ 消費税法の規定に基づく本来の取扱いの確認」において示した「消費税法の規定に基づく本来の処理例(国税庁仕訳表の処理例の値引き処理への修正版)」の表の「ポイント使用時」のところに示した仕訳と、同「Ⅳ 消費税法の規定に基づく本来の取扱いの確認」の中の「3.使用加盟店」のところの説明とにおいて、詳しく確認をしているとおり、ポイント費用に対応する「ポイント収益(値引き補てん収益)」として、消費税の不課税売上となることになります。

3.運営会社

 運営会社は、ポイント制度を加盟店に利用させる等の役務の提供を行っており、その対価を加盟店から受け取ることとしていますので、その対価(「システム利用料」などと呼ばれています。)の額については、課税売上とし、その額に対応する仮受消費税額を計上することになります。
 しかし、加盟店からポイント費用として受け取る金銭の額は、会員がポイントを使用して商品の購入等を行った加盟店に支払うこととなりますので、「預り金」という性格のものとなり、消費税の課税対象とはなりません。そして、当然のことながら、会員がポイントを使用して商品の購入等を行った加盟店に支払う金銭の額も、会員のポイントの使用額に応じて金額が決まるものであって、加盟店からの役務の提供の対価として支払われるものでないことが明確ですから、課税仕入れとなるものではありません(注6)。

 (注6)運営会社の中には、加盟店からポイント費用として受け取る金銭の額について課税売上とし、会員がポイントを使用して商品の購入等を行った加盟店に支払う金銭の額について課税仕入れとするというケースもありましたが、そのようなケースにおいては、結果的に、申告する消費税額は、誤った金額とはなっていないため、従来から、問題とはされてきませんでした。

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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