更新日 2023.09.19

共通ポイントの消費税の処理

Ⅱ 会員(事業者)の税務処理

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 上記Ⅰ 1においては、会員(事業者)がポイントを使用して商品の購入等を行った場合には、本来は、そのポイントの使用額を「値引き」として控除して実際に支払った金額に対する消費税額のみを仮払消費税額とするのが正しいということを確認しました。
 しかし、国税庁が公表している「No.6480 事業者が商品購入時にポイントを使用した場合の消費税の仕入税額控除の考え方」(以下「国税庁考え方」といいます。)においては、これと異なる処理をするケースがあるとする「考え方」が示されています。
 国税庁考え方においては、「事業者が商品購入時にポイントを使用した場合」に、レシートが「①のケース:値引き」に示されたものとなっているときは、商品の定価及びその定価に対する消費税額からポイントの使用額を控除した金額が事業者において課税仕入れの対価の額となるとされているものの、レシートが「②のケース:値引きでない」に示されたものとなっているときは、ポイントの使用額にかかわらず、「商品対価の合計額(全額)」(すなわち、商品の定価)が事業者において課税仕入れの対価の額となるとされています。
 このような国税庁考え方に示されている「考え方」は、正しいと言えるのでしょうか。
 国税庁考え方においては、「根拠法令等」として、「消法30」と記載されていますので、国税庁考え方の「考え方」の根拠法令は、消費税法30条(仕入れに係る消費税額の控除)となっているということになります。
 しかし、消費税法30条の文言をどのように解釈したとしても、レシートの記載が誤っている場合に、その誤っているレシートの記載に従って誤った金額を課税仕入れの対価の額としてよいと解釈することはできません。
 これを消費税法30条の文言を用いて、もう少し具体的に説明しましょう。
 消費税法30条6項においては、「第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額とは、課税仕入れの対価の額(・・・)をいい」と規定されており、この文言の括弧書きの中では、「(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし・・・)」(下線は、筆者が付したものであり、以下、同様です。)とされています。
 この括弧書きの中の文言については、特に通達等で解釈が示されているというわけではありませんが、課税仕入れと対応する関係となる課税売上に関しては、上記Ⅰ 2において引用した消費税法基本通達10-1-1において、次のような解釈が示されていますので、これを参考としてその解釈を深めることができます。

(譲渡等の対価の額)
10-1-1 法第28条第1項本文《課税標準》に規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」とは、課税資産の譲渡等に係る対価につき、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他の経済的利益の額をいい、消費税額等を含まないのであるが、この場合の「収受すべき」とは、別に定めるものを除き、その課税資産の譲渡等を行った場合の当該課税資産等の価額をいうのではなく、その譲渡等に係る当事者間で授受することとした対価の額をいうのであるから留意する。
(注)省略

 上記の消費税法30条6項の括弧書きの中の下線を付した部分の文言と上記の消費税法基本通達10-1-1の一重下線を付した部分の文言とを比較してみると、見事に対応していることが分かります。
 そうすると、上記の消費税法30条6項の括弧書きの中の下線を付した部分の文言の解釈は、通達等で示されているわけではないものの、その解釈を通達で示すとすれば、同項括弧書きの中の下線を付した部分にある「支払うべき」の解釈は、上記の消費税法基本通達10-1-1の二重下線を付した部分にある「収受すべき」の解釈と表裏の関係となると判断してよいはずです。
 つまり、会員(事業者)が加盟店からポイントを使用して商品の購入等を行った場合に、会員において課税仕入れの対価の額となる金額は、「当事者間で授受することとした対価の額」となるということです。
 これは、加盟店からポイントを使用して商品の購入等を行った会員(事業者)において、運営会社が加盟店に支払う金銭の額は、「当事者間で授受することとした対価の額」ではないため、課税仕入れの対価の額とはならない、ということを意味します。
 このように、会員(事業者)において、実際に加盟店に支払うこととなる金銭の額のみを課税仕入れの対価の額とすることについては、会員(事業者)と加盟店との間の商品の取引が当事者間で授受される金銭の額を対価の額として行われている事実を正しく税務処理に反映させたものでもあります。
 これを踏まえて、国税庁考え方に示されている「②のケース:値引きでない」に示されている処理について考えてみると、会員(事業者)が加盟店からポイントを使用して商品の購入等を行った場合に、会員(事業者)において課税仕入れの対価の額となる金額は、運営会社が加盟店に支払う金銭の額を含むことはなく、常に、会員(事業者)が加盟店に支払う金銭の額となることとなるため、「②のケース:値引きでない」において「課税仕入れの対価の額となる」とされている「1,090円」(オチャの定価540円とブンボウグの定価550円の合計額)が課税仕入れの対価の額となることはない、ということになります。
 要するに、ポイントを使用して加盟店から商品の購入等を行った会員(事業者)は、消費税の申告をする必要がある事業者である場合には、加盟店から受け取ったレシートに、定価に対する消費税額が記載されていたとしても、ポイントの使用が「値引き」であることに変わりはないため、消費税の申告においては、事実に即して、ポイントの使用を「値引き」とし、課税仕入れの対価の額について、定価からポイントの使用額を控除した本来の正しい金額とする必要がある、ということです(注7)。

 (注7)筆者は、国税庁仕訳表だけを訂正すれば済むと考えているわけではなく、国税庁考え方も訂正する必要があると考えています。
 注5においても同旨のことを述べましたが、万が一、国税庁が共通ポイントの使用には「値引き」ではないものがあると主張し続けるということであるとすれば、国税庁は、ポイントの使用が「値引き」とならない共通ポイントがどのようなポイントであるのかということを具体的に示した上で、そのポイントの使用が「値引き」とならない理由が何かということについて、早急に詳細な説明をする必要があると考えます。

 会員のうち、消費税の申告をする必要がない大半の者は、ポイントの使用を「値引き」とするとしたとしても、加盟店との間で授受する金銭の額が変わることはありませんので、損得が生ずるということはありません。
 しかし、会員のうち、消費税の申告をする必要がある事業者は、従来、加盟店からポイントを使用して商品の購入等を行ってその商品の定価に相当する金額を課税仕入れの対価の額としていたものについて、ポイントの使用を「値引き」とすることで、その商品の定価からポイントの使用額を控除した実際の金銭の支払額だけしか課税仕入れの対価の額とすることができなくなりますので、納付する消費税額が増加することとなります。
 このように、会員のうち、消費税の申告をする必要がある事業者にとっては、ポイントの使用を「値引き」とすることは、納付する消費税額を増加させることとなるため、デメリットとなるということになりますが、ポイントを使用して商品の購入等を行う取引について、事実に即して処理をすると、そのようにしかなりようがありませんので、止むを得ません。
 ところで、会員のうち、消費税の申告をする必要がある事業者においては、ポイントを使用して商品の購入等を行う場合の消費税の取扱いを上記のように変更することに伴い、仮払消費税額が少なくなる分だけ費用の額等として計上することとなる金額が増加し、法人の所得の金額が減少することとなることに留意する必要があります。
 この法人の所得の金額の変動に関しては、国税庁仕訳表の「ポイント使用時」の「買手(会員)」の仕訳と、本コラムに添付資料として再掲した「消費税法の規定に基づく本来の処理例(国税庁仕訳表の処理例の値引き処理への修正版)」の「ポイント使用時」の「買手(会員)」の仕訳とを比較して、その内容と金額を確認して下さい。

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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