更新日 2021.10.25

グループ通算制度の税効果会計-ASBJ実務対応報告42号のポイント解説-

第4回 適用時・加入時及び離脱時の取扱いほか

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士・公認会計士 足立好幸

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 足立 好幸

2022年4月1日以後に開始する事業年度から、現行の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとなりました。グループ通算制度への移行に伴い、企業会計基準委員会(ASBJ)は、2021年8月12日に実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」を公表しました。当コラムでは、実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」の概要について解説します。

1.未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い

 単体納税制度を適用する場合、連結財務諸表において未実現損益の消去に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上するにあたって、繰延税金資産の計上対象となる未実現利益の消去に係る将来減算一時差異の額については、売却元の連結会社の売却年度における課税所得の額を上限とし、繰延税金負債の計上対象となる未実現損失の消去に係る将来加算一時差異の額については、売却元の連結会社の売却年度における当該未実現損失に係る税務上の損金を算入する前の課税所得の額を上限とする(税効果適用指針35・36)。
 そして、グループ通算制度を適用する場合、連結財務諸表における未実現損益の消去に係る連結財務諸表固有の一時差異については、単体納税制度を適用する場合と同様に、税効果適用指針第34項から第37項に従って処理することになる(実務対応報告第42号18)。

 ただし、グループ通算制度を適用する場合、繰延税金資産及び繰延税金負債の計上対象となる法人税及び地方法人税に係る未実現損益の消去に係る一時差異の上限については、連結納税制度の取扱いを踏襲し、税効果適用指針第35項における「売却元の連結会社の売却年度における課税所得」を「通算グループ全体の課税年度における課税所得の合計」と読み替え、税効果適用指針第36項における「売却元の連結会社の売却年度における当該未実現損失に係る税務上の損金を算入する前の課税所得」を「通算グループ全体の課税年度における当該未実現損失に係る税務上の損金を計上する前の課税所得の合計」と読み替えた上で適用することになる(実務対応報告第42号18、54)。

 なお、住民税及び事業税に係る未実現損益の消去に係る一時差異の上限については、単体納税制度と同様の考え方となる。

2.投資簿価修正に関する取扱い

 グループ通算制度においては、投資簿価修正の方法が税務上の簿価純資産価額との差額を加算又は減算する方法に変更されているが、売却等によってその年度の課税所得を増額又は減額する効果を有する点は同様であることから、次のように連結納税制度における取扱いを踏襲している。

(1) 個別財務諸表における取扱い

 投資簿価修正による他の通算会社の株式等の帳簿価額の修正額は、投資簿価修正が行われる年度の課税所得を増額又は減額する効果を有することから、期末時点における他の通算会社の株式等の帳簿価額と税務上の簿価純資産価額との差額は、一時差異と同様に取り扱い、個別財務諸表において次のように会計処理を行う(実務対応報告第42号19)。

(1)
税務上の簿価純資産価額が他の通算会社の株式等の帳簿価額を上回り、投資簿価修正によって、当該帳簿価額が増額修正される場合((3)の場合を除く)、当該増額修正される部分については、将来の課税所得を減額する効果を有することから、次のいずれも満たす場合、繰延税金資産を計上する。
予測可能な将来の期間に、他の通算会社の株式等の売却等(投資簿価修正が行われる場合に限る。以下同じ)を行う意思決定又は実施計画が存在する場合
回収可能性適用指針に従って、当該繰延税金資産の回収可能性があると判断される場合
(2)
税務上の簿価純資産価額が他の通算会社の株式等の帳簿価額を下回り、投資簿価修正によって、当該帳簿価額が減額修正される場合((3)の場合を除く)、当該減額修正される部分については、将来の課税所得を増額する効果を有することから、次のいずれも満たす場合を除き、繰延税金負債を計上する。
他の通算会社に対する株式等の売却等を、当該株式等を保有する会社自身で決めることができる場合
予測可能な将来の期間に、他の通算会社の株式等の売却等を行う意思がない場合
(3)
他の通算会社の株式等について評価損(グループ通算制度の適用前に当該株式等について行った評価損を含む)を計上している場合で、当該評価損に係る繰延税金資産を計上したときには、他の通算会社の株式等の評価損計上前の帳簿価額と税務上の簿価純資産価額との差額について税効果を合わせて認識する。また、当該評価損に係る繰延税金資産を計上していない場合で、税務上の簿価純資産価額が他の通算会社の株式等の評価損計上前の帳簿価額を下回るとき(当該下回る部分が評価損に係る将来減算一時差異の範囲内である場合に限る)は、当該下回る部分に係る繰延税金負債を認識しない。
(2) 連結財務諸表における取扱い

 連結財務諸表においては、個別財務諸表における上記1の会計処理によって計上した繰延税金資産及び繰延税金負債を取り崩した上で、連結貸借対照表における通算子会社に対する投資の連結貸借対照表上の価額と税務上の簿価純資産価額との差額を連結財務諸表固有の一時差異と同様に取り扱い、税効果適用指針第20項から第23項に従って処理する(実務対応報告第42号20)。

3.適用時、加入時及び離脱時の取扱い

 グループ通算制度を開始する場合、グループ通算制度に加入する場合、グループ通算制度から離脱する場合において、いつの時点から開始・加入・離脱を前提として税効果会計を適用するかについては、以下の取扱いとなる(実務対応報告第42号21)。

 この点、グループ通算制度においては、適用、加入及び離脱の承認手続が連結納税制度から原則として変更されておらず、連結納税制度におけるこれらの取扱いを踏襲している(実務対応報告第42号56)。

適用時の取扱い
  • グループ通算制度を新たに適用する場合には、グループ通算制度の適用の承認があった日又は承認があったものとみなされた日の前日を含む連結会計年度及び事業年度(四半期会計期間を含む)の連結財務諸表及び個別財務諸表から、翌年度よりグループ通算制度を適用するものとして、税効果会計を適用する。
  • ただし、適用の承認を受けていない場合であっても、翌年度よりグループ通算制度を適用することが明らかな場合であって、かつ、グループ通算制度に基づく税効果会計の会計処理が合理的に行われると認められる場合には、これらを満たした時点を含む連結会計年度及び事業年度(四半期会計期間を含む)の連結財務諸表及び個別財務諸表から、翌年度よりグループ通算制度を適用するものと仮定して、税効果会計を適用することができる。
  • また、単体納税制度を適用している企業が2022年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首からグループ通算制度に移行する場合の実務対応報告第42号に基づく税効果会計の適用時期については、上記の取扱い(通常の適用時の取扱い)によらず、実務対応報告第42号の適用時期(強制適用又は早期適用の時期)から適用する(実務対応報告第42号32)。
加入時の取扱い 株式の取得等によって、新たに通算子会社となる(以下「加入」という)企業がある場合、次のように取り扱う。
(1)
加入前の時点で連結子会社である企業が、株式の取得等によって新たに通算子会社となる場合であって、当該企業を将来、通算子会社とすることについての意思決定がなされ、かつ、実行される可能性が高いと認められる場合には、これらを満たした時点を含む連結会計年度及び事業年度(四半期会計期間を含む)の連結財務諸表及び個別財務諸表から、その影響を考慮して税効果会計を適用する。
(2)
加入前の時点で連結子会社でない企業が、株式の取得等によって新たに通算子会社となる場合には、通算子会社となった時から、その影響を考慮して税効果会計を適用する。ただし、通算子会社となることによって、税務上の繰越欠損金の引継制限や特定資産に係る譲渡等損失額の損金算入制限が課される場合で、通算子会社となる可能性が高く、かつ、当該企業においてもその事実が明らかになっていると認められる場合には、これらを満たした時点を含む事業年度(四半期会計期間を含む)の個別財務諸表から、損金算入が見込まれない税務上の繰越欠損金及び特定資産に係る将来減算一時差異について繰延税金資産の回収可能性はないものとする。
離脱時の取扱い 株式の売却等によって、通算子会社でなくなる(以下「離脱」という)企業がある場合であって、将来、通算子会社でなくなることについての意思決定がなされ、かつ、実行される可能性が高いと認められる場合には、これらを満たした時点を含む連結会計年度及び事業年度(四半期会計期間を含む)の連結財務諸表及び個別財務諸表から、その影響を考慮して税効果会計を適用する。
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